劇場公開日 2018年12月7日

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「溝の中で揺さぶられる若者たち」青の帰り道 しろくまさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0溝の中で揺さぶられる若者たち

2019年6月14日
iPhoneアプリから投稿

夢と現実。
想いを貫くことと、妥協すること。
若者と大人。
親と子。
やりたいことと売れること。
真面目にコツコツ働くことと、人を欺いてでも金儲けをすること。
善良と悪。
田舎と都会。
仲間と孤独。
生と死、死と再生。
そうした、人生の優しさと残酷さ。生きることの苦しさと喜び。

これら二項対立する要素が、距離を離して置かれている。そこには深くて広い溝がある。本作に登場する7人の若者たちは、その溝の中で揺さぶられ、翻弄される。
そういう映画だ。

彼らの前には道が延びている。
高校生のときは、その道の先に不安も恐れもなかった。
しかし、歩み始めたその道は、「どうして、こうなっちゃったんだろう?」と呟かずにはいられないほど、誰にとっても苦しい。

本作は、特定の登場人物に肩入れすることなく、誰にも一定の距離感を置いて描いている。それでいて、彼らの言動に心を動かされてしまうのは、そこにウソがないからだろう。
ウソをつかずに生きる若者たちにとって人生は時に残酷だ。しかし彼らを見つめるカメラには温かさがある。
若者たちにとって過酷とも思える試練が続くが、この映画が悲惨な悲劇にもニヒリズムにも陥らないのは、この温かさがあるからだろう。

青春映画の定番的なテーマが並び、それらのテーマは、群像劇のフォーマットを取りつつも、それぞれの人生の道行きとともに、複雑に交差する。
その錯綜したストーリーを、この尺に収め、破綻なく収斂させたのは見事。濃密な脚本と演出の冴えを感じさせる。

そして収斂させたのは、本作の主題歌でもあり、劇中歌としても使われていたamazarashiの歌「たられば」の存在も大きい。
その点で本作は音楽映画と位置付けてもいいように思う。

映画はエンディングを迎えるが、彼らも、観客たちも、それがほんとうのエンディングではないことを知っている。
「そして人生は続く」からだ。
幸せと不幸せ。
その振幅のあいだに、人生はある。

しろくま