「残酷ながらも、独自性と自立性に溢れ、美しく、全く新しいアニメーション!」大人のためのグリム童話 手をなくした少女 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
残酷ながらも、独自性と自立性に溢れ、美しく、全く新しいアニメーション!
アヌシー国際アニメーション映画祭審査員賞他、各国で多くの賞を受賞。
『グリム童話』の一編、『手なしむすめ』を原作としたフランス製アニメーション。
貧しい暮らしの父、母、娘。
父は悪魔に騙され、富と引き換えに娘を差し出す。
娘は父に両腕を切断される。
娘は家を出、放浪する…。
色んな意味で驚きの本作。
何から語ればいいのやら…。
まずは、
アニメでグリム童話と言うとディズニー・アニメのようなファンタスティックで楽しい作品を思い浮かべるが、基のグリム童話は本当は残酷な物語なのは有名な話。
本作もあらすじだけで分かる通り、楽しさとは無縁。
過酷な運命に翻弄されるヒロイン、腕の切断や目玉をくり抜くなどの残酷描写、性的な描写も。
それらがハイクオリティーの画だったら、胸糞悪く、とことんド鬱アニメであったろう。
独特の手法だからこそ、不思議な寓話として作品世界に誘われる。
その手法というのが、“クリプトキノグラフィー”。
監督たった一人で作画を手掛け、極力簡素化/省略化した作画技法。
そして、その画のタッチに何より驚かされた。
水墨画風と言えばまだしも、雑な下書きのような画が動く。
見初めはさすがに戸惑った。これを80分間見なければならないのか…。
しかし見ていく内に、ある事に気付く。
キャラや画が動いてるというより、それらを形作る線そのものが躍動しているのだ。…いや、寧ろ、息づいていると言っていい。
故・高畑勲監督の絵巻アニメ『かぐや姫の物語』や油絵が動く『ゴッホ 最期の手紙』の画の表現にも驚かされたが、こんな表現のアニメは見た事が無い!
画自体は簡素だが、描写は繊細で時に美しくもあり、いつしか引き込まれてしまう。
物語の方も一筋縄ではいかない。
不思議な精霊の力に護られながら、娘はある王国に辿り着く。
王子と出会い、見初められ、結婚。妃に。子も産まれる。
勿論、シンデレラ・ストーリーなどではない。
再び、悪魔が…。
悪魔の仕業により、娘、王子、仕える庭師の思惑が交錯。
娘は赤子を抱え、王宮を去る。
再び各地を放浪し、時も流れ、この寓話の結末は…。
一応の“めでたし めでたし”。
しかし、決して画に描いたようなハッピーエンドではなく、見た人に委ねる。
独自性、自立性。
それはまるで、たった一人で誰も作った事が無いようなアニメを創り上げた監督の才気と、アニメーションの新たな表現を切り拓いたかのよう。