「真・サラリーマン」七つの会議 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
真・サラリーマン
『空飛ぶタイヤ』に続く、池井戸潤作品の映画化。
『空飛ぶタイヤ』が正統派の社会派エンターテイメントだったのに対し、こちらは言わば、サラリーマン活劇。ホント、“活劇”という言葉がぴったり。
とにかく、演出も演技も濃い!コッテコテ!
そして、勧善懲悪。まるで時代劇を見ているようだった。
この作風は『半沢直樹』に近い。
キャストも『半沢直樹』で見た顔が多く、『半沢直樹』にハマった方は『空飛ぶタイヤ』より好きかもしれない。
ちなみに自分は、どちらも好きだなぁ。今回もたっぷり楽しませて貰った。
とある中堅メーカー。
その営業部は、鬼と恐れられる部長の下、常にノルマ!結果第一!ノルマ!結果第一!ノルマ!結果第一!ノルマ!結果第一!ノルマ!結果第一!…。
社員は吐き気と共に、日々実績と数字とプレッシャーに追われている。
そんな中に一人、怪人物が。
営業一課の係長、八角。
本名は“やすみ”だが、周囲からは“はっかく”と呼ばれている。
会議に出てはいつも居眠り、万年係長、クビにならないのが疑問のぐうたら社員。
何故だか部長も何も言わない。
ある日八角は、直属の上司の課長をパワハラで訴え…。
この八角のキャラが面白い。と言うより、本作の面白味のほとんどだろう。
画に描いたような問題社員。そのぐうたらぶりは、植木等や西田敏行といい勝負。
しかし、実はあの鬼部長と同期で、かつては最前線で出世を争った超エリート。
こういう普段はダメダメでも、実はスーパーマン!…なキャラは個人的にツボ。と言うか、好きな方は大勢居るだろう。
でも八角、クリーンなスーパーサラリーマンという感じではない。
課長やイヤミな会計係やネチネチなクレーム係ら八角に喧嘩を売った奴らは皆、謎の異動や左遷。
本人も「これ以上関わっちゃならねぇ」と不敵な笑みを浮かべ、何処か末恐ろしい。
その存在感、モンスター…いや、シン・ゴジラ級!
野村萬斎が快演。
現代劇なのに雰囲気や喋り方が狂言的/時代劇的で当初は違和感を感じるが、段々とこの人にしか出せない味になってくる。
一体、八角は何者か…?
後任の課長と事務係が八角について調べていくと、会社存続級の秘密を知る事に…!
池井戸作品なので、その秘密はお馴染み。
会社の不正、悪事、リコール隠し…。
八角はそれを知る人物の一人。
と言っても、それに関与し隠蔽しようとする側ではない。寧ろ、その逆。
人知れず、闘っていた…。
今作もまた話が面白い。
序盤はコミカルに、しかし次第に熱を帯び、ケレン味たっぷりに。
パワハラ訴えをきっかけに、会社の、親会社の病巣が明るみに。
小ボス、中ボス、大ボス、ラスボス…と、立ち塞がる。
クセのある登場人物が織り成すサラリーマン・バトルロイヤル。
そこに、八角とある人物との因縁、敵対。
時代劇のような下克上、反撃。
男たちの友情…。
展開やオチは予想出来、リアリティーには欠け、オーバーな演出や演技ではあっても、病み付きになり、グイグイ引き込まれる。痛快!
池井戸作品は期待を裏切らない。
『空飛ぶタイヤ』に続き本作も興行ランキングでヒットスタートとなったようで、池井戸作品の映画化はさらに過熱するだろう。
楽しみ!
ほとんど野村萬斎の土壇場だが、周りも魅せてくれる。
三枚目的な及川ミッチーと朝倉あきのコンビは愉快。
鹿賀丈史はさすがの威圧感。
オリラジ藤森もイヤミな好演。
でもやっぱり、香川照之!
もはや安定の濃演!
野村萬斎と顔付き合わせる顔面対決やあるシーンで絶叫する顔芸は何だか笑えてもくる。
池井戸作品の香川照之と言うとどうしてもあの役を思い浮かべ、序盤のシーンから本作もそうだろうと思いきや、単にそうではない。
中間管理職、板挟み、苦悩…いい役回りであった。
リアリティーに欠けるとついさっき書いたが、痛烈なテーマやメッセージは突き刺さる。
特に、エンディング時の八角の長台詞は、日本の会社へ鋭いメスを入れる。
サラリーマンは何故働く…いや、闘うのか?
何故、不正は無くならないのか?
サラリーマンは、戦士だ。日本風に言えば、侍だ。
日々、仕事と闘っている。
しかし時にはその敵が強大過ぎて、足を踏み外してしまう。
それは自分の弱さでもあるが、元凶は会社の…もっと大きく言えば、日本のそのものの体制。
従順し、ノルマや結果が全て。
それが不正や悪事を生む。
会社や仕事が無くならない限り、不正や悪事も無くならない。
皮肉であり、悪循環でもある。
でもそんな病原菌や膿を排する為には、荒療治も必要だ。
異端の存在が。
どんな世界にも一人くらい異端児は必要。
会社そのものを激震させる異端児だが、会社に残り続け、会社を見守り続ける。
人はそれを、“真のサラリーマン”と呼ぶ。