劇場公開日 2019年2月1日

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七つの会議 : インタビュー

2019年2月6日更新
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野村萬斎&香川照之が深めた、同志としての絆

狂言師の野村萬斎が、池井戸潤氏のベストセラー小説を映画化した「七つの会議」に主演。ドラマ「半沢直樹」「下町ロケット」などで福澤克雄監督が構築した“池井戸ワールド”に新風を吹き込んだ。これまでの情熱的な主人公像とは一線を画し、中堅メーカーでぐうたら社員と揶揄(やゆ)される万年係長だ。一方、福澤組を知り尽くす香川照之は、エリートコースを歩んだ営業部長として圧倒的な個性を発揮。2人は反目し合いながらも、それぞれの矜持を持って企業の闇に立ち向かっていく。共に待望の初共演。格闘技、ラグビーのスクラムなどと例える濃密な攻防を繰り広げ、同志としての絆を深めた。(取材・文/鈴木元、写真/江藤海彦)

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「舞台や古典で培った演技とは違う部分を大事にしなければいけないと思いつつ、香川さんをはじめ演技に熱があり、テンションが高くていい現場だということが分かりました。格闘技の試合をしているようで、まさしく人と人がぶつかり合うところをカメラで撮るという、いいお手本を示していただきました」

萬斎がこう振り返るのは、冒頭の営業会議のシーン。結果至上主義の営業部長・北川誠が机を叩きながら「売って、売って、売りまくれ!」とカツを入れる、部下がおう吐するほどの緊張感を強いられる場面だ。

「萬斎さんと一緒に芝居をさせていただくことが一番大きかったです。伝統芸能を継承されてきた方がその軸と精神からどういうものを出していくかという意味で、最初に相対してみて、福澤組はテストからここまでやっても大丈夫ですよということをプレショーのような感じでお見せできたと思います」

セット撮影初日での香川の気配りに、萬斎も「素晴らしいスタートダッシュだった」と如実に感じ取る。ただ、萬斎扮する八角民夫は“居眠りハッカク”の異名よろしく高いびきをかいている設定。そこでも自身の立ち位置をしっかりつかんでいた。

「ペースは学習できるけれど、自分はそこに引きずられてはいけない役。香川さんがここまでのベクトルで引っ張ってくれるなら、自分は逆のベクトルでいけばバランスは取れる。香川さんがここまでやっていいということを監督も許容しているなら、こっちもここまで振り幅があってもいいという計算もさせていただいた」

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映画は、八角に対する上司のパワハラ問題をきっかけに会社の存続を揺るがすほどの事態に発展。同期ながら過去の確執で道をたがえた2人もその渦中に身を投じていく。顔を突き合わせ、互いの主張を爆発させるシーンは息を飲むほどの迫力。池井戸×福澤作品の真骨頂といえるが、元ラガーマンで大学時代に日本選手権を制した経験もある福澤監督の出自が原点にあるという。

香川「福澤さんは肉体同士のぶつかり合いをしてきた人だから、その痛みや音、首のきしむ感じが見たいと思うんですよ。自分が感じた痛みを超えていないとOKが出ない」
 萬斎「それは想像できますね。普段男同士はそんなに近寄らないだろうという構図は、スクラムを組む前の距離感」
 香川「言葉のレベルでそれがあるかどうかを置き換えている。そこまでいかないとトライにならないという感覚。他の役者さんで見ていても、『これじゃ、まだ』というのがよく分かります」
 萬斎「体育会系というか我々は肉体労働者。精神も使いながら全身で表現しないといけない現場なんだというのはあったし、あれだけ寄ってくると顔の筋肉も使わなければいけないとなってくる」

萬斎をはじめ歌舞伎、落語、音楽、お笑いなど多様な世界から集まったくせ者たちの思惑が絡み合う群像劇。萬斎は映画初出演となった黒澤明監督の「乱」(1985)に思いを重ねた。

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「監督の下で一丸となっている感じや、小細工をした芝居よりも大胆なバシッとした芝居を求められる点は似ているし、福澤さんも意識されているなという気がしました。逆に大見得を切っていかないと、ストーリー展開も含めてバランスが取れなくなる」

八角は過去のしがらみから解き放たれ、人生を懸けた戦いに挑む。北川も己の正義の下である覚悟を決める。ラストは八角の独白で締めくくられる映画のオリジナルで、そのセリフは撮影も終盤に入ったところで渡されたという。

「多分監督が、映画がどこに着地するのかを撮りながらつむぎ出した言葉でしたし、私も八角という人間が最後に吐く言葉として非常に腑(ふ)に落ちました。この映画が何のためにあったかを提示しているような気がして。それはサラリーマン社会がいまだに時代劇というか、幕藩体制の武家社会の名残を引きずっているようなところをこの映画は照射しているんだろうなと思います」

これには香川も納得の表情で、持論を放つ。

「八角という一人の男が立ち向かっていく、そのキャラクターが実は…というところがあるのが、映画というエンタテインメントのフィニッシュとしての意味がある。それが池井戸さんの原作を映画化する意義だったと思います。よく八角のキャラクターをあそこまで快活に変えたなと。脚本の力ですね」

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2人は学年は香川がひとつ上だが、誕生日は約4カ月違いの同世代。「七つの会議」という舞台で初めて芝居をし、魂をぶつけ合ったからこそ生まれた信頼関係が垣間見え、互いの口から自然と「同志」という言葉が飛び出した。

香川「萬斎さんが狂言の世界で積まれてきた研さんや厳しさなどは全く想像ができるし、それを何十年も積み上げ追求してきた先輩でもあるから、僕も経験したからこそのリスペクトは何倍も持っています。同志というニュアンスでエリートとぐうたら社員という差異はあるかもしれないけれど、共に歩んでいるという意識は持たせていただきました」
 萬斎「ずっと香川さんとやってみたいというのはありましたので、そういう意味では同志ですね。お兄さんがペースをつくってピタリと合わせてくださったので、遠慮なくやらせていただきました」

さらに香川は、福澤監督が池井戸作品を映像化する際の“証明式”について長広舌をふるった。萬斎も「福澤作品の論文が書けるね」と楽しそうに呼応。いつまでも聞いていたい2人のやり取り。そのあうんの呼吸は、しっかりとスクリーンに反映されている。

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