「これは現代の七人の侍である」劇場版 SHIROBAKO ヤスリンさんの映画レビュー(感想・評価)
これは現代の七人の侍である
「SHIROBAKO」TV版が放送された2014-15年、私は仕事が忙しくてほとんど観ることが出来ませんでした。そこで今回の劇場版公開に併せて、先にdアニメストアで全24話を予習として観ることにしました。すると…メチャメチャ面白い!あおい・絵麻・しずか・美沙・みどりの上山高校アニメーション同好会の面々を始めとして、武蔵野アニメーションの社員達、それぞれのキャラが魅力的で、たちまち作品の虜になりました。ああもうっ、何で今までこれを観なかったのかと後悔しきり。
実は私もアニメ業界と近い業界(漫画業界)にあり、アニメ業界人との交流もあるため、エピソードの一つ一つがもの凄くリアルに感じられるのです。おまけに今住んでいるマンションから歩いて1分のご近所に某アニメスタジオがあって、あおい達のような制作進行係らしき人たちが時々車で出入りしているので、まるで現実のことのようにSHIROBAKO世界を堪能できたというか。
さて、TV版24話を見終わり、キャラや世界観も頭に入ったので早速劇場版を観に行きました。最終回で成長したあおいたちが一体どんな活躍をするのか?4年後だしさらにパワフルになっているんだろうなと楽しみにしていたのですが…。
のっけから落ちぶれたムサニの姿が!?社員の数も少なくなり、残った社員も覇気が無くなっています。一体どうしたんだ!?話が進むにつれ、その謎が解かれていきます。「第三飛行少女隊」の成功で順調に業績を伸ばしたムサニが、新作アニメを制作し始めたのは良いのだけれど、版権元が突如制作ストップをかけて経営危機に陥り、倒産を免れたものの多くの社員が会社を離れることになったとのこと。丸川社長は責任を取って辞任、ラインプロデューサーの渡辺が代わりに社長となり、なんとか他社のグロス請け(元請けした他社のアニメの1話を引き受けること)で糊口をしのいでいるのです。
…もうね、観ていて痛くて仕方がない!実は僕自身も同じような経験をしたことがあるのです。編集者から企画物をやろうと言われて半年以上ネームをやりとししたあげく、やっぱ無し!と撤回された記憶が。半年間の労力が全部パー!その他にも契約書まで交わしたのに2年間拘束だけされてなしのつぶてだった某パチンコメーカーの仕事とか…。版権物ってこういうことがあるんですよ。僕なんかはまだ個人の被害だから良いけど(良くないけど!)、ムサニは会社として損害を被ったわけで、そりゃもの凄く大変だったんだろうなと思ってしまいました。
そんなムサニにメーカープロデューサーの葛城から突如劇場版アニメの制作が持ち込まれます。他社に制作を依頼していた作品が全く進まず、以前から交流のあるムサニに泣きついてきたのです。悩む渡辺新社長とあおい。果たして今のムサニに劇場版アニメを作る体力はあるのか、と。しかしあおいは思い出します。アニメを作る情熱を。そして彼女は動き始めます。この心理描写をミュージカル風にしたのは面白い!
ここからあおいの八面六臂の活躍が始まります。かつてのムサニの仲間に声をかけ、落ち込んで引きこもりになった木下監督の尻を叩き、次々にメンバーを集めていくのです。かつて新人の制作進行だったあおいが、今は会社のプロデューサーとして!
これを観ていて思ったのが、これは現代の「七人の侍」だ!ということ。あおいが勘兵衛役として一騎当千の荒武者を集めて、村(ムサニ)の一大事に当たるのですから。すると木下監督が菊千代か?(笑)それぞれのキャラが生き生きと群像劇を繰り広げるのはTV版と同じでとても魅力的でそして熱い!キャラも少しずつ成長していて、その成長具合を見るのも楽しいというか。
そしてクライマックス。作品が完成してラッシュを見終わった後、あおいがみんなに問いかけるのです。これで良いのですか?と。いつもなら木下監督が言いそうな台詞をあおいが言うのがこの作品の肝!制作側だって作品のクオリティに拘りがあるんだという台詞でした。そしてラストシーンをより素晴らしい物に作り直して、物語は終わります。
とても面白かった!大満足!!…と言いたいところですが、今回僕は5点を付けません。-1点で4点です。その-1点は何なのかというと、肝心の「空中強襲揚陸艦SIVA」の出来がいまいちなこと。あれだけムサニのみんなが一生懸命作った作品なのに、なんかもう一つ物足りないというか。
これはTV版でもそうなのですが、水島監督は日常世界を丹念にハイクオリティに作りすぎてしまうために、劇中劇の作品が見劣りしてしまうのです。これを防ぐためには全く違う作風にして、比較できないようにしてしまうのが一番で「アンデスチャッキー」では上手く差別化が出来ていたのですが、SIVAではいまいちそれが出来ていなかったのが残念。せめて色合いを変えて日常シーンとの画面の違いを出せばまだ良かったのでしょうけど。3Dとの合成ももう一つで,ここはもうちょっと頑張って欲しかったです。
とはいうものの、全体の出来はやはり素晴らしかったです。SHIROBAKOは日常の群像劇こそがメインなので、そこの出来は満点どころか120点!今年観るべき劇場版アニメだと、胸を張ってお勧めできます。
最後に、未だ見に行っていない人は是非TV版「SHIROBAKO」24話をもう一度予習してから観に行くことをお勧めします。群像劇なので各キャラの設定とか知っておいた方が楽しめますし。ちなみにdアニメストアなら月額400円で見放題!SHIROBAKOキャラがCMしています。(笑)