「スリラーとしても、家族の物語としても中途半端」ジュリアン しろくまさんの映画レビュー(感想・評価)
スリラーとしても、家族の物語としても中途半端
夫婦の離婚調停のシーンから本作は始まる。
既に夫婦関係は破綻し、妻は子供と実家に帰っている。
調停の結果、夫には11歳の息子ジュリアンとの面会権が与えられた。
ジュリアンには姉がいて彼女は18歳。
ということは、この夫婦は20年近い付き合いのはずなのだが、どうして、こうなったのかの説明はない。
夫は短気で粗暴。実の父にもそう言われているのだから、ずっとこうなんだろう。概ね夫のほうに原因があることは分かる。
だが、実の子から避けられ、自分の実家からも締め出される。仕事も辞めたらしく、彼の疎外感、孤独感はかなりのものだろう。
このような、夫の背景や心情を描くことも出来たはずなのだが、本作ではほとんど説明はない。
彼の内心は語られず、ただ、その行動から読み取るのみである。
だが、これだけでは、あのラストの行動に至った理由があまりにも分からない。
いや、そうではなく、夫をもはや理解不能のモンスターとして描くやり方もあるだろう。
DVという日常生活に潜む恐怖を主題に据えたスリラーとして描く、という方法だ。
この場合は、被害者を描いてほしい。
妻や子供たちが、どれだけ夫を恐れているか、これまで、どんな恐ろしい目に遭ったのか、など。
それがあって、観る側の恐怖はさらに増幅される。
もちろん、ラストの行動を見れば、彼は充分に怖い存在ではあるのだが、あまりに経緯が分からない。
つまり。
どうも、家族の物語としても、スリラーとしても、いずれにしろ中途半端に思えてならない。
いや、現実のDVとは、こうなのかも知れない。
20年の家族としての年月も、そこにあった葛藤も、短時間の調停で判断され、ある日突然、決定的なことが起こる。そういうものだとしても、映画としてどうなのか?
パーティのシーン。音楽がうるさくてセリフが聴こえない。携帯を見る。誰かが誰かに耳打ちする。人が動く。こうした情景描写だけで不安を煽り、何かが起きていると思わせる演出は秀逸。
惜しい。