「完成度の高い傑作」ジュリアン 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
完成度の高い傑作
導入部分からすぐに物語の設定が飲み込めるようにできている。法律家同士が互いに落とし処を探り合いながら交わす早口の会話から、期せずして登場人物それぞれの相互関係の温度まで伝わってくる。期せずしてと書いたが、勿論それが演出の狙いでもある。
ジュリアンと男のシーンは観ていてつらくなるが、男の理性が次第に蝕まれていく様子が手に取るようにわかって、こちらにまで危機感が伝染してくる。猛獣と一緒の檻に入っているような感覚なのだ。そしてそこから大団円、さらに結末に向けては一本道で、無駄なシーンはひとつもない。二時間があっという間だ。起承転結のお手本みたいな作品である。
邦題は子供の名前である「ジュリアン」だが、原題はフランス語の「Jusqu'a la garde」である。翻訳が難しいが、la gardeを親権とすれば、「親権まで」となるのかもしれない。フランスでは離婚の原因がどうあれ、両方の親の親権が認められることが多い。しかし子供の人権を保護するためには現制度でいいのか、疑問が残っている。
物語の最後になって漸く、原題の仕掛けに気がつく。そして最初の調停のシーンがとてつもなく重要な意味を持っていたことがわかるのだ。
ジュリアンを演じた子役をはじめ、役者陣の演技は本当に見事で、最初から最後まで映画の世界に引き込まれっぱなしであった。完成度が相当に高い作品である。
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