「【第二次世界大戦中、夫の帰りを只管に待つ妻の物語。だが、夫の生還後、妻の取った行動に”マルグリット・デュラスさん、如何に恋多き女性とは言え・・”と男性目線で思ってしまった作品。】」あなたはまだ帰ってこない NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【第二次世界大戦中、夫の帰りを只管に待つ妻の物語。だが、夫の生還後、妻の取った行動に”マルグリット・デュラスさん、如何に恋多き女性とは言え・・”と男性目線で思ってしまった作品。】
ーマルグリット・デュラス:20世紀フランスを代表する女性作家。恋多き女性として、自分の少女時代のフランス領インドネシアでの経験を綴った「愛人/ラマン」は、世界的なベストセラーとなり、映画化もされた。(劇場にて鑑賞したが、非常に面白かった・・。)
今作は、「愛人/ラマン」が刊行された1984年の翌年に「苦悩」というタイトルで刊行された、デュラスが”私の生涯で最も重要な作品の一つである”と語ったと言われる作品を映像化した作品である。-
■1945年4月
ナチスに対抗する活動家である夫ロベールは政治犯として、ナチスに勾留されていたが、無事に彼女の元へ帰ってきた・・と言う”幻想シーン”から物語は始まる。
■1944年6月
・ナチス・ドイツは徐々に劣勢になっていたが、未だマルグリットの夫は捕らわれたままであった。夫の情報を得るために、ナチス側の警官で夫を逮捕したラビエと密かに会い、情報を得ようとするマルグリット。活動家の仲間であるディオニス達からは”軽率だ・・”と批判されるが、何度もラビエと会うデュラス。
ーラビエは、デュラス作品の”ファン”であることが、劇中描かれる・・-
そして、夫ロベールの移送情報を貰い、通行手形までもらって夫に会いに行く。移送されるトラックからロベールが移送先を告げる叫び声が・・。
・ナチス兵が撤退し、”パリ解放”の歓喜の中でも、マルグリットの表情は暗い。夫が戻って来ないのだ・・。TVから流される、ナチスに捕虜になった人々が虐殺されているという情報。
ーマルグリットの心象を彼女を演じたメラニー・ティエリーの抑揚のない沈んだ声で表現したモノローグが延々と続く・・。歓喜に沸く人々を冷めた言葉で観察する言葉が印象的である。-
◆ここまでは、”戦争の勝敗に関係なく、妻は夫の無事な姿を待っているのだ・・、”というストーリーだと思って観ていた・・。
・その後も、マルグリットは”熱のためか”夫は死んだ・・と思いこんだような、暗いモノローグが続く・・。
・が、ある日、ディオニスが”ロベールの仲間が10日前に彼に会ったと言っている”と言う情報を齎すが、マルグリットの表情は沈んだまま・・。
・そして、”ロベールは生きているが赤痢にかかり、4日と持たない状態だ・・”と言う情報が入り、ディオニス達は決死の思い出ロベールを1945年5月7日に連れ帰る。 が・・、何故かマルグリットは夫に会いに行くわけではなく、相変わらず暗い表情を浮かべている・・・。
ー何故、ロベールに会いに行かないのか????、マルグリット!-
対照的なのは、ユダヤ人の娘を待ち続けていたマルグリットと同居していたセッツ婦人の姿。娘が5カ月前にガス室に送られていた事を知り、去る姿。
<夫の帰りを只管待つ間に、”愛は移ろい、瞬く間に終焉してしまう”様を描いた作品。
戦後、夫と海に出掛けた際の、”夫との離婚、そしてディオニスとの関係性が語られる場面。”
原作では、途中からディオニスとの関係が赤裸々につづられているが、映画ではそのシーンが”ディオニスがマルグリットを励ます”形で描かれていたため、劇中のマルグリットの終始苦悩する表情が少し理解しにくかったが、
【貴女の苦悩とは、夫が帰ってきて欲しいという思いと、ディオニスと結ばれたいという思いの狭間での苦悩であったのか・・。
それで、夫を逮捕したラビエとも、余り後ろめたさを感じずに会っていたのか・・!】
と納得してしまった作品。
怖ろしきかな・・、マルグリット・デュラスの業に塗れた愛の深さ・・。
これが、創作ではなくマルグリット・デュラス自身が選んだ事実であるという事にも、男としては戦慄した作品である。>