「邦題はセンスがあると思う」あなたはまだ帰ってこない 菊正宗さんの映画レビュー(感想・評価)
邦題はセンスがあると思う
「待つ女」というのが主題だと考えられる本作。しかし、少し違う。特に前半と後半で。
障害を持つ娘の帰りを待つ老婦人だが、最後に娘が死んだ、という報を受けても、「一方的に言われただけ、単なる噂かも」と言う。この時、老婦人は「待つ女」というよりも、もはや「待つことを選んだ女」といえよう。パリ解放後、「夫が帰って来れない(帰って来れる体でも、死んでいても)」という大前提が崩れ、夫が自由になり帰ってくる、or夫はもう死んで帰って来ない、という二者択一となり、待つ女はその選択を迫られているのだ。信じて待つか、諦めてしまうかを。
そしてこの一連の「苦悩」こそが、ディオニスに問われた、「ロベールを待つことと君の苦悩、どっちが肝要なんだ」という種の意味の質問に集約される。ここでマルグリッドはロベールを諦め(たと私は考える)、ディオニスと結ばれる。そしてロベール生存の報が届くのだ。そう考えると恐ろしくよくできてるな。
マルグリッドが時々分裂するのも、信じて待つマルグリッドと諦めたマルグリッドの分裂だと考える、ロベールが帰ってきて階段を駆け下りるマルグリッド、窓から外を見るマルグリッド。
屋内と屋外の使い方が光る今作。「車道を歩いたり、歩道を歩いたり」を繰り返すマルグリッドは、ドイツ車(戦車、捕虜車も)走る車道に出て、ゲシュタポに挑むか、仲間のいうように慎重に行動するか、心揺れている。しかし、少なくともパリ市内を歩けていた。特にラビエに勝利した後の自転車のシーンは彼女のゲシュタポへの勝利だろう。
しかし一転、パリ解放後、街中のお祭り騒ぎにはマルグリッドはブラインドを通して、淡い光や人影を見つめることしかできない。ロベールの安否わからぬままでは歓喜に酔う外界とは相容れないのだ。
「あなたはまだ帰ってこない」は「苦悩」をよく表した言葉だ。すぐに帰ってきてくれれば、問題ないのだ。しかし、「あなたはまだ帰ってこない」を繰り返し、ロベールの生存を諦めてしまったマルグリッドには彼に会う資格はない(と彼女は思っている筈だ)。彼女は会いたくない、と繰り返す。しかし、ここからどう向き合っていくのか?というのが、ワクワク。少なくとも2年は一緒にいるし。不勉強なので原作は読んでないが、挑戦してみたい。
前半が割とつまらなく、後半との対比の意味では面白いなー、と思った程度。あと隣の席のご老体が肝心の後半で寝こけてて、もったいないと思った。でも、2時間はたしかに長いな。前半あんなにいるか?