「デュラス作品を読んでいるかのように感覚になる」あなたはまだ帰ってこない りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
デュラス作品を読んでいるかのように感覚になる
原作はマルグリット・デュラスの『苦悩(LA DOULEUR)』。
デュラスの実体験、それも第二次世界大戦中に書かれた日記がまるのまま挿入されているという作品です。
第二次世界大戦終戦から相当の年月を経たある日、わたしマルグリット(メラニー・ティエリー)は2冊の日記を見つける。
戦中に書いたものだが、たしかにそこに書かれていることは生々しく記憶しているが、そんな日記を書いたことはまるで憶えがなかった・・・
時代は1944年6月、ナチスドイツ占領下のパリ。
わたしの夫ロベールはナチスに逮捕され、刑務所に収監されている・・・
というところからはじまる物語で、戦時下のハナシだけならば、戦下のメロドラマっぽい雰囲気。
だけれど、『二十四時間の情事(ヒロシマ・モン・アムール)』『かくも長き不在』のマルグリット・デュラスなので、一筋縄ではいかない。
記憶・認識・・・というのが、デュラス作品の主題のひとつなので、この映画も映画にするときにそこいらあたりに十分配慮している。
わたしマルグリットの一人称を強調するように、単焦点レンズで撮って、そのとき撮るべき対象以外はぼやけている。
そして、その対象はマルグリットばかりでない。
記憶の奥底から何かを引き出そうとしたような映像。
そこに、ときにはモノローグが被さる・・・
なかなかチャレンジングな映像表現である。
夫ロベールの行方を探すうちに、ゲシュタポの手先である刑事ラビエ(ブノワ・マジメル)と懇意になり、情報を引き出すためのやり取りが描かれる前半は、物語の起伏もあり、かなりスリリング。
つまり、ストーリー映画として愉しむこともできる。
が、後半、帰還者が増えるなか、戻って来ない夫を待つ段になると、ストーリー性は喪われ、少々、観続けるのがつらくなってくる。
そんな中、終盤は急転直下の展開。
衰弱に衰弱を重ねたような姿で夫ロベールが帰還するのだけれど、マルグリットのこころは、自分を支えて助け続けてくれたレジスタンスのサブリーダー・ディオニス(バンジャマン・ビオレ)に、いつしか惹かれていた・・・
えええええ、な展開。
それも、先に述べたチャレンジングな映像表現が災いしたのか、マルグリットの転心ぶりがあまり伝わってこない。
もしかしたら、終盤現れる「ふたりのマルグリット」のショットが、それを表しているのかもしれないが・・・
と、観ている側としては少々わかりづらいところが無きにしも非ずなのですが、まるでデュラスの作品を読んでいるかのように感覚になるあたりは評価したい作品です。
ほぼ出ずっぱりのメラニー・ティエリーは好演。