「『シャッター・アイランド』+『複製された男』」2重螺旋の恋人 f(unction)さんの映画レビュー(感想・評価)
『シャッター・アイランド』+『複製された男』
「精神科医ポールは実在するけれど,ポールの兄ルイは,患者のクロエの妄想か?」「ルイの部屋に置かれた花が造花だということは,ルイが想像上の存在だというヒントだ!」と思わせておいて,そもそも「ポールが精神科医で,クロエがその患者」という前提自体がクロエの妄想だったというオチ。映画のステレオタイプ「精神病患者は妄想する」を逆手にとった作品。
ポールが精神科医であるのも,ポールの双子の兄ルイの存在も,「バニシング・ツイン」の片割れの姉を腹部に抱えるクロエの妄想。
(でもクロエは,腹部の違和感の原因がバニシング・ツインであることや,双子は姉であるということをどうやって知ったのだろうか?双子の99%以上が一卵性であることから,バニシングツインの片割れが同性であると考えるのは不自然ではないが,生まれる順番というものがないので姉も妹もない。「姉」というのは彼女の導入した設定だろう)
ただしポール自体はクロエの親しい友人として実在する。そして,クロエの母親の存在も妄想に影響している。クロエは,自分が生まれることを母親が望んでいなかったのではないかという疑いから,自己否定的な感情を抱いている。
クロエの自己否定的な感情は,互いの存在を打ち消そうとするバニシング・ツインと結びついた。クロエにとって姉イザベラは,クロエを否定する存在だとされたのである。そしてクロエは「互いに互いを吸収しようとするクロエとイザベラ」という設定を,自分から切り離して,親しい友人ポールに投影した。ただしポールは双子ではないので,止むを得ずポールの双子の兄ルイという存在を妄想せざるを得なかった。双子のポールとルイは,クロエの欲望と結びついて妄想が捗ったというわけである。
この妄想は,双子と恋愛するうちクロエが妊娠することによって「腹部の違和感」という現実との接点を持つ。けれど父親がどちらかは分からない。兄かもしれないし,弟かもしれない。これは,実際には姉を吸収したクロエが,もしかしたら吸収される側だったかもしれない,という可能性の検討が反映されているのだろうと思う。
クロエは,男性であるポールに自身を投影する。男性性を象徴するのが短髪である。作中クロエが短髪なのは,クロエが自分自身を男性に投影していることのヒントである。生理不順や薄い胸,丸みのない体型といった,女性性の希薄で中性的なクロエの性質もまた,男性への自己投影に寄与しているかもしれない。映画冒頭,クロエが髪を切った時点で,彼女の妄想は開始しているのである。
「統合失調症的な妄想と謎解き」という要素は『シャッター・アイランド』を思わせ,双子,複製,性欲といった要素及び現実と非現実を区別しない作風はヴィルヌーヴ監督の『複製された男』を連想させた。