「『ジョニー狩り事件』」可愛い悪魔 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
『ジョニー狩り事件』
『東のエデン』というアニメ番組の登場人物に“白鳥・D・黒羽“という女がいて、専ら男性器を切り取り回るという犯人であるのだが、その理由が「女性の敵である性犯罪者=生産性のない男を間引いて、代わりに優秀な外国人を日本に輸入する」という設定であった。ここまでぶっ飛んだキャラ設定ならばフィクションとして興味深いのだが、生憎今作品は、実際に起こった事件の、その内情をイマジネーション化したものであるので、仕方がないのであろうが現実の陳腐化は否めない。およそ人間の想像なんてそんなものだ。
“弁護士局部切断事件”という当時センセーショナルで下世話なネタとなった事件を再現する中で、被害者、加害者ではない、しかしその2人を結びつける女に焦点を当て、その女の心の有り様や、行動を描いたというストーリー展開で、テラーとして実際に存在していないルポライターと嘘をつくストーカー男が進行役という役柄である。裁判の冒頭陳述で披露されていることは大まかに落とし込んでいるのでそこにはフィクションはあまりない。
ネットで調べると、この女の症状に『アレキシサイミア:自らの感情を自覚・認知したり表現することが不得意で、空想力・想像力に欠ける傾向のことをさす』が窺えるとあるようだ。ファムファタールをこの女に当てはめる作りになっている今作としては、この感情を認知することの障害を一種のサイコパスとして位置づけているのだろうが、その意図があまり感じ取れなかったのは、やはり映像がAV仕立てになってることでぼやけてしまってることが起因なのだろう。細かい演出でも、例えばロザリオを弁護士からプレゼントされたのも、この女が熱心なクリスチャンの家に生まれたことを暗喩していること等、いろいろと事実に基づいた点が多いのだが、それよりも、風呂場でのガラスに胸を押しつけるシーンや、後ろの穴へのアプローチ等々、そのシーンを喜ぶカテゴリの人達への親切心が挟み込んであるので、どっちつかずのテーマ設定になってしまっている。多分、手汗が酷い事を訴えるシーンなどもなにかのクエスチョンなのだろうが、それよりもその手をベロベロ舐めるその変態性、フェティシズムばかり強烈に印象に残ってしまい、ぼやけてしまっている。何回も繰広げられるドアや窓を覗くシーン等も、隠されたメタファーがあるのだろう。ま、ラストシーンの『茶柱』は、ギャグなんだろうけど・・・
男が嫌いならば切ってしまえばいい、その男も嫌われる位ならば男じゃなくなればいいという、或る意味究極の選択を易々と超えてしまうその女の魅力というものをもっと丁寧に訴えて欲しいと思う次第である。
AVのファンタジーをリアリスティックに描くという実験的要素は興味深いなのだが、しかし芯はきちんと構築して欲しかった。
噛んだガムを又噛んで、その残り香を愉しむという日本的変態性がスパイスになっている作品なのだろうことは理解出来るのだが・・・もう少し、分析力が欲しかった内容であった。