「こんなワガママ男に感動かよ」こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
こんなワガママ男に感動かよ
筋力が低下し麻痺していく難病“筋ジストロフィー”を患い、2002年に43歳で亡くなった実在の人物、鹿野靖明氏。
その凄絶な闘病記…であるのだが、
さながら鹿野氏の人となりのように、明るく前向きに、笑いと涙の好編。
何と言っても、鹿野氏の人物像。
先に述べたように、難病を患いながらも明るく前向きに、病院には入院せずケアハウスで自立生活を送り、精一杯自由に生き、アメリカに行ってある人物と会いたいという夢がある。
何だか健常者の方こそが見習うべき点多々。
これだけなら誰にも尊敬される人格者だが…、少々性格に問題アリ。
24時間介護が必要な身で、常にボランティアが付き添わなければならないのだが、とにかくワガママ!
このコミカルなタイトルがまさにその一例。真夜中に突然バナナが食べたいと言い出し、買いに行かせる。
自己チュー。ボランティアスタッフはもうヘトヘトで眠さMAXなのに、ベラベラベラベラお喋りに付き合わさせる。
かなりの皮肉屋、減らず口。
あれやってこれやって、あれ欲しいこれ欲しい、ああじゃないとダメこうじゃないとダメ…。
自分は昨年悪い病に掛かって入院した際、看護士の助けが欲しい時申し訳なさそうに頼んだのに、何様!?
でも不思議と、彼の周りにはボランティアスタッフが集まる。
もうそのワガママぶりも承知の上のようで、時々困らされるけど、慣れたもん。
信頼性か、それともワガママ言い放題だけど何処か憎めない愛すべき鹿野氏の魅力か。
鹿野氏のボランティアの中に、医者の卵の青年、田中が居る。
彼の紹介で新たにボランティアとしてやって来た若い女性、美咲。
最初は鹿野氏のワガママぶりに唖然。遂には我慢出来ず、「何様!?」と食って掛かったのは実は彼女。(まあ、そう言いたくなる気持ちも分からんではないが)
美咲は田中と付き合っているが、デートよりボランティアを選んでしまう彼氏に不満が募る。
おまけに鹿野氏から猛アタックされる。
もう二度と来ない!…と言ったのに、鹿野氏の強引さに根負け。ボランティアを続ける。
散々人を振り回す鹿野氏だが、時々胸に響くいい事を言う。
美咲は本当はフリーターで、教育実習生と嘘付いて田中と付き合っていた。それがバレ、仲がぎくしゃく。
そんな時、鹿野氏がナイス助言。「嘘をホントにしちゃえばいい」
将来の夢など無かったうら若い女の子の背中を後押し。
鹿野氏もよく嘘を付いているとか。わざと痛がってみたりして、ボランティアスタッフの気を引くことしばしば。
鹿野氏の場合それは、生きる為の必死の嘘。
また、愛情の照れ隠し。母親が見舞いに来ると、「クソババァ」「早く帰れ」と辛辣な言葉を浴びせる。無論、本心ではない。
親というのは、障害を持った子供を産んだら、自分のせいと一生責める。
母ちゃんは何も悪くない。俺は自立して生きていけるから、母ちゃんも自分の人生を生きて欲しい…。
親思いの優しい子なのだ。
身体が動かせない以外普通の人と何ら変わり無いが、その身体には徐々に病が深刻にのし掛かって来る。
遂に倒れ、拒んでいた入院をしなくてはならない事に。
しかも手術や酸素マスクが必要となり、鹿野氏の“自由”と“命”である声が出せなくなってしまう。
さすがにその闘病姿は、見ていて辛くもなる。挫けたくもなる。
しかし、鹿野氏もボランティアスタッフも諦めない。へこたれない。
医師に内緒である方法で、出せなくなった声を再び取り戻す…!
もはや奇跡!
それもひとえに“家族”の支え。
“家族”と言っても血の繋がりある実の家族ではなく、言うまでもなくボランティアスタッフたち。
彼らの支えあって鹿野氏も頑張る事が出来た。
ボランティアスタッフたちも鹿野氏の闘う姿に奮い起こされた。
彼らは患者とその介護スタッフの関係ではない。
対等の“家族”なのだ。
理想的かもしれない。でも、こうありたいと思わせる。
人と人、病との向き合い方を。
実在の人物なのに、まるで大泉洋の為のハマり役。
あの癖ある性格、ちょい小憎たらしさ、ユーモアと人間味…。
体重を10㎏も減量し、熱演!
美咲役の高畑充希も自然体の好演。何だかこれまで見てきた中で、最も魅力的に可愛らしく見えた。
三浦春馬もなかなか悪くなく、その他周りのキャストも皆、好助演。
『ブタがいた教室』の前田哲監督の卓越した演出手腕が本作でも冴える。
シリアスな題材や苦しい場面もあるが、邦画のこの手の作品にありがちな辛気臭さは無い。
難病映画でも闘病記でもない。
これは何ものにも負けず、自由を求め、各々夢に向かって生きた愛しき真実の物語なのである。
2020年7月19日追記
近々また見る予定だったが、急遽昨日鑑賞。理由は言うまでもなく。
本作で田中くん役の三浦春馬さんが死去。
しかも、自宅で首を吊った自殺という衝撃…。
特別大好きな役者という訳ではなかったけど、いつ見てもどの作品見ても好印象。
熱演したり控え目な役を好演したり、自分の中での印象は『君に届け』の風早。追悼メッセージ通り、本当にあんな好青年だったのだろう。
それにしても、一体何があったのか…?
真面目でストイックで、我々には分からない人知れず悩みや苦しみ、重圧があったのだろうか…?
それでも我々に魅せてくれた笑顔、好印象。
30歳という若さ、子役からの長いキャリア。
誰もあなたの事は忘れません。
今はただただ、ゆっくりお休み下さい。
こころさん
コメントありがとうございます。
今週末公開の『コンフィデンスマン』、来年も出演作が一本。
秋にはTVドラマ。こちら撮影中だったらしく、お蔵入りになるとの噂も…。
他にも2ndCDリリースや年末には舞台。
こんなにも順風満帆。
役作りか私生活面か、それ故の悩みがあったんでしょうか。
三浦春馬という逸材の、あまりにも惜しすぎる突然の急逝でした…。
この作品は観ていないのですが、報道を見る限り、出演作が続くようでした。コロナ禍の影響でスケジュールが一層押す中で、真摯な三浦春馬さんにとって、納得の行く役作りの為の時間が取れたのだろうか、が気になります。