「ミシェルに感情移入しました」機動戦士ガンダムNT unicornさんの映画レビュー(感想・評価)
ミシェルに感情移入しました
宇宙世紀の正統的なガンダムサーガとして及第点をつけられる出来だと思う。
まずストーリーが良い。強化人間への非道な扱いを主人公たちに課すことで、一年戦争からラプラス事変までの歴史の裏面を描くと共に、裏写し的にニュータイプという存在の解釈を示してみせる福井氏の手腕に唸らされた。そしてそれが、一本の映画としては、三人の主人公たちのメロドラマに帰結する。特にミシェルの抱える人間の原罪にも通じる生きることの苦悩と、自らの犠牲を以て愛する人の許しを乞う哀切、そして死の瞬間に贖うことで得た救済と、若いながらも壮絶な人生を送ってきたキャラクターに、半世紀以上生きた我が身を重ねて、不覚にも涙してしまった。
また、福井氏自身も発言していたが、脚本の密度の高さと演出のテンポの速さが、ガンダム映画らしいドライブ感とも言うべきテイストを醸し出しており、ガンダムを観ているという満足感を感じた。小形プロデューサーの言う富野っぽさとはこれかと思った。
無論、映画としての弱点も少なくない。
他のレビューでも多く指摘されているキャラクターデザインの問題と作画のムラを私も感じた。キャラクターデザインは好悪の問題なので、私はあまり好まないということだけだが、作画に関しては、私ももっとCGを使った方が全体としてのルックスは良くなって劇場版としてのリッチさが出たと思う。そこは残念なところだ。
また、メイン主人公のヨナのキャラクターが立っていない。物語の構造として、三人のうちリタは、ある意味最初から実在せず、他の二人が追い求める謂わばマクガフィンなので、あのように観念的なキャラクターなのもわかる。またミシェルは、上記のように実はミシェルこそ、この物語の根幹を担う真の主人公とも言うべき存在なので、そこに比重が置かれたため、相対的にヨナが割りを食ったのかもしれない。それにしても劇中でせめてガンダムに乗るに足る資格のあるところが示されないと、余りにもキャラクターとして弱過ぎたと言わざるを得ない。榎木氏の演技が素晴らしかっただけに、非常に惜しまれる。
ともあれ、総体として満足できるガンダム映画だった。