「小さな正義が権力に挑む」1987、ある闘いの真実 しろくまさんの映画レビュー(感想・評価)
小さな正義が権力に挑む
全斗煥による軍事政権下の韓国。民主化を求める市民や学生の活動を当局は押さえ込もうとしていたが、行き過ぎた取り調べの結果、1人の大学生を拷問の末に殺してしまう。
政府や警察は、その真相を隠蔽しようとするが、そこに立ち向かう人々の闘いを描く。
熱い。
終始、血がたぎり、涙が流れる。
状況を見れば当局に従うのが利口だ。
だが、そこには不正に眼をつぶることが出来ない人たちがいる。
彼らは一介の市民や学生だったり、下級役人だったりする。
彼らの職分や役割は小さいかも知れない。だが、自分の行うべきことにおける正義を忘れない。彼らが貫いた小さな正義が、やがて大きなパワーとなり、権力を揺さぶっていくさまが痛快。
作中、「閣下」と呼ばれる全斗煥の生身の姿はついに見えない。登場するのは、テレビの画面越しの公的な演説、写真、そして側近が伝える「意向」だけだ。
その「見えない存在」が、弾圧するほう、されるほう両者の運命を翻弄する点に恐ろしさを感じる。
特殊警察(公安のような組織と思われる)のトップのパク所長は脱北者。彼が北や共産主義を憎む挿話が語られ、(その憎しみは歪んだ形で表れているものの)「弾圧する側」の心情も描かれ、人間ドラマを重厚に見せている。
ムダと思われる挿話もなく、観客をぐいぐい引っ張る推進力は相当なもの。非常に締まった内容で、まったく飽きさせない。ドラマを煽る音楽、いささか芝居じみたカメラワークも観る者を裏切らない。重厚なノンフィクションでありながら、エンターテイメントとしても一級品である。
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