「ホラーか?⇨ヒューマンドラマか?⇨から凄いところに行き着く」A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー 冥土幽太楼さんの映画レビュー(感想・評価)
ホラーか?⇨ヒューマンドラマか?⇨から凄いところに行き着く
僕は映画を観るとき、その映画が鑑賞者をどこまで連れていってくれるのかがかなり重要な要素になってくると思っている。
そういう意味で本作は着地点が全く予想がつかず、
ジャンルも悉く入れ替わり、そしてそれでもしっかりと一貫した作品として始まりから終わりまで成立しているこの作品を評価せざるおえない。
本作はかなりミニマルな作りであり、そのミニマルさは全編を通して伝わってくる。
(画面のスクリプト比の狭さ、そしてフレームの角の丸さ、過度な長回しと美的なロングショットなどのかっちりとした構図、セリフや音楽、登場人物の少なさ)
このミニマルさにはタイトル通り、一亡霊の個人的な話であるという一貫性がある。
しかし、このミニマルさこそが後半の壮大な展開へのギャップをうむ。
前半部分のドメスティックでセンチメンタルな展開から、中盤は凄まじい未来や過去を行き来しながら眺める時間や人類の流れ、そして忘れさられていく個人や建築物の歴史、跡形もなく変化していく世界という存在の虚しさや諸行無常さへと繋がっていくという、かなり思想的なところまで行き着く。
ホラーからラブストーリーやヒューマンドラマを経てテレンスマリックのような境地に到達するとは。
そこには飲み会である男が語る唯物論やかつてネイティブアメリカンに殺された隣家の人々の歴史、そして待ち人来ず成仏していく亡霊や時空を超えて亡霊でありながらかつての自分や自分の亡霊すらも目撃してしまうというメタな世界観、かなり独特な表現や思想を取り入れることで物語がぐっと深まる。
こういう全く未知の空間へと連れていってくれる作品は案外稀有なものだ。
しかしそこまで難解というわけでもなく、ちゃんと鑑賞していれば全て理解できるくらい情報量も少ないミニマルな作りなのである。
正直こんなわかりやすい作品を難解な作品だとかアートな作品と言ってしまえるのは、少し映画鑑賞するうえでの知性とか知的指数が足りないように思う。
長回しだってかつての映画ではもっともっとまどろっこしかったり難解だったりしたものだ。
そういう人間は自分が理解できる範疇のお話や自分が求めるお話しか享受したくない駄々っ子のようなものだ。
作品を評価できる土台に立っているとは思えない。
この作品は評価されて然るべきである。
しかし傑作というより佳作とか特別賞とかそういうのがお似合いの愛らしくも素晴らしい作品という評価である。