劇場公開日 2019年3月22日

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「白でも黒でもユダヤ系でも」ブラック・クランズマン ipxqiさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5白でも黒でもユダヤ系でも

2019年4月14日
iPhoneアプリから投稿

「ネズミ」をとるのが良い猫。

潜入捜査ものに外れなし…とはいえ、これはマニア好みの作品で、私のような素人には理解できないのでは? 眠たくなっちゃうのかな? という懸念を持ちつつ、寝不足の頭を抱えて劇場へ。
サービスデーでもあり、公開3週目の狭い劇場は満席。
字幕監修にオーサカ=モノレールの方が入ってました。

結論としては、思いのほかシリアス、でもユーモアも効いていて、潜入ものらしいスリルもばっちり、魅力的なキャラクターを描きながら、返す刀で社会情勢への鋭いメッセージを叩きつける…という離れ業が行われていました。

主人公は、どこか飄々として一見なに考えてるかわからない黒人警官と、自分のアイデンティティの置き所を決めかねているようなユダヤ人のノンポリ? コンビ。
白黒問わず威勢よくゲキを飛ばす「闘士」たちからすればただの半端者にしか見えないだろう2人。
が、そんな彼らだからこそ、黒人警官が白人至上主義団体に潜入するなどという前代未聞の捜査を可能にしたという(実話)。

とくにジョン・デビッド・ワシントン(デンゼル・ワシントンの息子)演じる初の黒人警官は、腹の内はともかく、電話口ではペラペラと同胞を貶める言葉を連発、仲間からもさすがに不審がられつつ、一発で差別主義者の白人から仲間認定されるありさま。
なんか不良マンガの作者は本物の不良…ではなくそれをクールに眺めていた人が多い、みたいな話に似てます。きっと本人たち以上に「らしさ」を客観的に捉えてるからなんだろうな。
その会話がいちいち気が利いて楽しいわけですが、あまりに見事になりすますもんだから後ろで聴いている同僚(白人オンリー)の方がギョッとしたり、笑いを堪えてたりするわけですが、あくまで本人はクール。
その態度は最終的にナイーブなスローガンや聞こえのいい言葉より仕事の成果や親しい人の安全といった「実」を選ぶクレバーさの現れだった、ということがわかる。
一方で実際の潜入担当のアダム・ドライバーはそこまでクールには徹しきれず、内心の苦悩も匂わせて、これはこれでセクシーで魅力的。

そんな2人のさり気ない会話からは、白だの黒だの言ったって、実際のアメリカ文化はすでに混じり合い混沌としていて、そこに明確な線なんか引けないでしょ? というメッセージも。

終始「クール」で軽いノリを貫いたドラマの最後には、ストレートなメッセージが飛び込んできて意表を突かれ、その熱さには思わず涙も出た。
それをやり過ぎ、粋じゃないという意見もあるようだけど、少なくとも私は「ただの映画だとお思いでしょう?」「遠い過去だとお思いでしょう?」という意地悪さの先にある本気の怒りを感じたし、好きだった。
実際のところトランプ政権になってから現実は映画以上に悪い冗談じみてるし、その前から白人による黒人への謂れなき暴力は健在だし…
なにひとつ過去じゃないし甘くない今の現実への怒りを反映してるんだと最後に強調する構成だと思う。
白かろうが黒かろうが、クソにはクソと、また英雄的行為には栄誉を。
それともあなたはまだ白黒いうの? と皮肉を込めたラストまで135分。
少し長めだけど、1秒も眠たくなることなく、できればずっと眺めていたくなるようなキャラクター、チームで、作り手の気合と気迫がめちゃくちゃ感じられました。
これを自分はプロデュースに回ってお師匠に委ねたジョーダン・ピール含めて関係者みなさんおつかれさまでした。

ipxqi