「凌辱されたにも関わらず、強く優しくなれるオンナの生き様」バハールの涙 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
凌辱されたにも関わらず、強く優しくなれるオンナの生き様
IS(イスラミック・ステート)が恐れた、女性だけで構成された戦闘部隊"太陽の女たち"(Les Filles du Soleil)の話。
主人公の"バハール"は、クルド人の女性弁護士。イラクのクルド人自治区で幸せに暮らしていたバハールは、ある日突然、ISに村を襲撃され、息子を奪われてしまう。
男性は即時処刑、女性はISの兵士にあてがわれ、男の子は戦闘員としての育成訓練に連れていかれてしまった。
バハールは、国際的な支援によって、なんとか脱出に成功するが、安全な地域で避難生活を送るどころか、同じ被害女性だけの戦闘部隊、"太陽の女たち"を結成し、ISとの最前線での戦いに身を投じていく。
この作品が秀逸なのは、フランス人の女性ジャーナリストのマチルドが、バハールを取材するという形で、戦闘の最前線が描かれているところ。ここに、まるでドキュメンタリーのような緊張感とリアリティが発現する。余計なセリフがないのに、マチルドの取材行動が前線での状況説明を補完しているのだ。
やがて立場は違えど、マチルドとバハールは女性同士で共鳴し合うようになっていく。この映画で描かれるのは、肉体的にも精神的にも凌辱されたにも関わらず、強く優しくなれるオンナの生き様だ。
どんどん引き込まれて、だんだん現実味を帯びてくるのだが、実はマチルドもバハールも架空の人物だったりする。
監督・脚本は、やはり女性であるエヴァ・ユッソン監督。複数の女性クルド人戦闘員に取材はしているものの、主人公のバハールは、創作された人物。イスラム原理主義らしいのは、ISは"女に殺された者は天国に行けない"と信じているところで、やがてISの戦闘員たちは、武装した彼女たちを恐れるようになっていく。
一方でジャーナリストのマチルドも、モデルとなる2人のジャーナリストの合成である。
モデルのひとりは、文豪アーネスト・ヘミングウェイの3番目の妻で従軍記者として活動したマーサ・ゲルホーン。エミー賞を受賞したテレビ映画「私が愛したヘミングウェイ」(原題:Hemingway & Gellhorn/2012年)で、ゲルホーンをニコール・キッドマンが演じている。
もうひとりは、海賊のように片目に眼帯をしたメリー・コルヴィン(Marie Catherine Colvin)である。世界中の紛争地を渡り歩き、戦地で負傷した左目に黒い眼帯がトレードマークになっていたジャーナリスト。
彼女の生涯を描いた映画「ア・プライベート・ウォー」では、コルヴィンを演じたロザムンド・パイクが、ゴールデングローブ賞の最優秀主演女優賞(ドラマ)にノミネートされている。今年(2019年)秋公開予定である。
オンナの監督が作った、オンナのジャーナリストの視点による、家族のために戦闘の最前線で戦うオンナたちの姿。
(2019/2/5/シネスイッチ銀座/シネスコ/字幕:不明)