劇場公開日 2020年6月6日

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「過去にも、未来にも、現在にも、心は存在しない。」凱里ブルース 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5過去にも、未来にも、現在にも、心は存在しない。

2020年7月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

結局、なんだったのか。
キャストに特に魅力もなく、風景は中国のど田舎で、物語の展開もダラダラしてて、長回しだって意味を感じない。なんだろ、これ。それが正直な感想だった。
ただ、美しかった。
金剛般若経の言葉を引き合いに出しながら、心の流れを問いかけてくる語りには、意味不明の禅問答を吹っ掛けられているような霧中遊泳感を感じながらも、その心地よさに酔いしれる気分になる。そのせいか、現代中国の地方都市の混迷するジメジメっとしたスクリーンからは、不愉快の感情よりも望郷の寂寥感を覚えるのだ。
その気分を増幅させるのは、40分もあったという長回しシーンのせいだろう。あれは、主人公の夢の中なのじゃないのか、と思う。その夢の中では普通に時間が流れて行っているようで、いくつかの時間軸が混在しているように感じた。探している甥は、不遇であった過去の自分。探している老女医の元恋人は、いつか死期の迫った時の未来の自分。だから、過去も未来も現在も、現実でありながら現実味はなく、まるで夢の中。肉体も存在しないし、ましてや心も存在しない。禅でいう空の世界。
たぶんこの映画、観るたびに感じることは違ってきて、彩りは増していくであろう。

栗太郎