「世紀のディスり映画」翔んで埼玉 keithKHさんの映画レビュー(感想・評価)
世紀のディスり映画
世紀のディスり映画、今世紀最大にして平成最後の茶番劇という謳い文句通り、荒唐無稽、奇想天外、空前絶後、驚天動地、気宇壮大、傍若無人、狂喜乱舞、支離滅裂、言語道断、横断歩道、弱肉強食、焼肉定食、笑門来福、九蓮宝燈・・・・・・。
天に雷鳴轟かせ、大地を無惨に引き裂いて、この世の終わりか、あの世の閾か、夢か現か幻か、地獄煉獄掻き分けて、死屍累々を踏み越えて、結界超えていざ行かん、行くが男の生きる道、”埼玉解放”に命を懸ける人々の愛と哀しみ、汗と涙に満ちた苦闘の歴史を綴った、却って面白可笑しく笑い飛ばせる今だからこそ制作された作品であり、それでもTVでは放映できない、映画館でこそ観られる作品です。
「埼玉県人には、そこらへんの草でも食わせておけ!!」という台詞に顕著に象徴される如く、埼玉県人が東京から過酷に理不尽に虐げられ迫害されているという設定の下、その解放と自立に向けて凛々しく戦う埼玉県人の壮絶にして勇敢な物語であり、其処に埼玉の対抗組織の千葉解放戦線や、東京に摺り寄り高みの見物を決め込む神奈川、日本の秘境にして人外魔境の地・群馬が複雑に絡み合う一大冒険譚です。
郷土愛とその反面としての偏見をユーモラスに且つ過激に誇張して描いていますが、東京都庁周辺道路を封鎖し数百人のエキストラを動員して撮影した一大ロケを含め、主演のGACKT、二階堂ふみ以下、伊勢谷友介、中尾彬、京本政樹、麻生久美子、竹中直人、間宮祥太朗等の豪華出演者たちが、ここまで莫迦莫迦しさを徹底して大真面目に突詰め演じられると、却って爽快で心地良く、2時間弱を呆れながらも没入して観終えました。
人は誰も優越感と劣等感の狭間で己の居場所を見出し、その両者の微妙なバランスを保って辛うじて生きています。他人を値踏みし、己が勝ることで安堵しつつ、徹底して他人を見下す。反面、己が劣ることを卑下し、徹底して卑屈に振舞いつつ嫉妬する。
他人をディスるという性行は、決して狭小化すべきではなく、本作が埼玉の解放を勝ち取った革命であったように悠久の人間の歴史を動かしてきた大きな誘因の一つだったと看做すべきであろうとも思い至ったしだいです。
ただ観賞中の大爆笑と大興奮に反比例して、これほど観終えて何の感動も残らない映画も珍しいですが、ともかく愉快で陶然とした時間を過ごせました。間違いなく“映画”の持つ魅力の一面でしょう。