「女優の地位向上を叫ばれてもヒットしなきゃ」イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
女優の地位向上を叫ばれてもヒットしなきゃ
ひと昔前なら、この主人公の立場はまるで逆だっただろうと思う。不幸な事故で心に傷を持つ腕のいい気球乗り(エアロノーツ)と、探求心に突き動かされる無謀な学者の組み合わせは、たとえば『アビス』『ピースメーカー』などの映画では、設計者や博士の肩書で行動する女優を、アシストしながら導く強い相棒役を主演の男優が演じていた。ジョージ・クルーニーのあくまでも共演者としてニコール・キッドマンが存在した。
それがここ数年の#MeTooに端を発する運動で女優の地位向上が叫ばれ、役柄にも変化がみられるようになった。『ゼロ・グラビティ』ではサンドラ・ブロックが博士役を演じる女優で主演、ジョージ・クルーニーはミッション全体の現場責任者で彼女に協力する宇宙飛行士で助演。2013年の時点では対等か、まだクルーニーのほうが強そうに見えた。
この映画では、男女の役割が逆転してしまっているように見える。行動力に富む勇敢な気球乗りを女優(フェリシティ・ジョーンズ)が演じ、彼女に守られながら気球に乗る研究者を男優(エディ・レッドメイン)が演じている。
冒頭に実話に基づくというような注釈が入るが、実話だとしたら当然ふたりとも男だったはずだろうと思う。
そして2015年の『ザ・ウォーク』という映画。これは幸運にも3Dで見ることができたのだが実に肝を冷やすハラハラドキドキの映像だった。ニューヨークの同時多発テロで失われてしまった貿易センタービルがあった時代に屋上にロープを張り、綱渡りをやってのけた実在の人物を映画化したものだが、クライマックスは固唾を飲んで見入ってしまった。
それを上回るぐらい、ドキドキさせられた映画だった。
どうやらアマゾン・プライムビデオの配信を想定して限定的にしか公開されなかったのか、劇場でもほとんどやってない。しかし、映像の迫力や野心的なカメラワーク、美しい背景の色合いなど劇場向きな作品だと思う。音楽と映像のマッチングもいい。
ただし映画としてはストーリーがほとんど予想できることと、地味な展開が続くことがネックになり、やや食い足らない印象だ。
2020.1.27