劇場公開日 2018年9月21日

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「観た人誰もが温泉宿に行きたくなる」若おかみは小学生! ヨックモックさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5観た人誰もが温泉宿に行きたくなる

2019年7月23日
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ああ、濡れるような緑の山奥よ、田舎の温泉郷の美しさよ。
本作は児童文学が原作の少女の成長物語である以上に、日本の温泉宿の憧憬を描いた唯一無二の存在である。この映像を観て温泉地に思いを馳せない日本人が果たしているだろうか?
春夏秋冬、移ろう季節とともに描かれる自然の美しさとおっこの日々は、いまや失われ久しい、日本人の心理の中に生きる風景なのだろう。だからこそ愛おしく切ないのだ。

と、熱っぽいことを描きつつもそれがただのファンタジーではなくそこそこのリアリティをもって描かれている点もこの映画の良いところなのだろう。幽霊などと突飛な存在はいるものの、登場人物たちはみな血が通った存在だし、田舎の風景は過度に非文明的ではなくあくまで現代日本の観光地としての微妙なディティールを残している。コンビニはあるし、車に乗ればショッピングモールにも行ける。でもだからといって、木造の小学校なんてもはや希少なものだし、あんな大規模な鯉のぼりがみられるところは殆どない。夢と現実のハイブリット感が心地よい具合なのだ。

テレビアニメ版では両親の死を諦念をもって普通に受け止めているおっこに“現実はこんなものか”というリアリティを感じたものだが、映画版ではしっかり心にトラウマや闇を抱えていて、しかしその描写も過度ではなくこれまたちょうどいい具合にまとまってるのが素晴らしい。悲しい夢は見るけれど、別に日々幻覚を見てるようなヤバイ子ではないし、両親の夢を見た後も普通に目覚めて生活をしている。高速道路に乗るとトラウマがフラッシュバックするけれど、極度に錯乱したりするわけでもない。少女の心の傷と成長が、ただただ真摯に描かれている。

しかし、自分が両親を殺した娘が働く宿屋に泊まらされるトラック運転手が哀れでならない。きっと夜は眠れないし、食事は砂を噛むような感覚だろう。おもてなしの精神があれば、黙って秋好旅館に送り出してやるべきだったが、あそこで引き止めたのは復讐だったのだろう。エグい。

グローリー水領がすっぴんだと地味な顔立ちなのがイイわ~。

ヨックモック