「世界の果てで、自分のはじまり」旅のおわり世界のはじまり 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
世界の果てで、自分のはじまり
黒沢清監督と前田敦子の3度目のタッグ作。
その内2作が主演で起用しているのだから、“現代のクロサワ”と呼ばれる鬼才が如何に女優・前田敦子を高く評価しているかが分かる。
自分もアイドル時代はさておき、女優としては惹き付けられる存在。『苦役列車』『もらとりあむタマ子』『イニシエーション・ラブ』『モヒカン故郷に帰る』『町田くんの世界』…。主演/助演問わず。
今もアンチ派には徹底的にフルボッコにされているが、その実力や魅力は着実に磨かれている。
本作も然り。
舞台で歌う事を夢見る葉子は、TVのバラエティー番組のレポーターとして3人の撮影クルーと共にウズベキスタンへ。
自分の本来の夢とは違う望まぬ仕事。ワガママ言って拒否はせず、要求されれば何でもやるが、少々投げやりイヤイヤ感が。
夢はあるものの、本気でそれに向かおうとしているのか。
自分の生き方も明確に見出だせない。
恋人との結婚も考えているが、本当に望んでいるのか。
典型的な優柔不断ヒロイン。決してイラッとさせるムカつくタイプではないが、心を開かない性格のようで、時々言動が分かりかねる事も。(迷子になる事2回、警察に身柄を預けられる事1回!)
そんなヒロインがこの旅の中で異国や人々と触れる。
トラブルやある悲しみを経て、再認識していく。
成長していく。
心の底から解放されていく。
それらを繊細に演じている。
また、アイドル時代でも沢山披露したであろう“バラエティースマイル”、よくぞ回った3回転!(完全に某人気バラエティーの“珍獣ハンター”と“アクティビティ”みたい)
久々に歌声も披露。元多人数アイドルグループの絶対的エース!
ロケも相まって、さながら“前田敦子のウズベキスタン紀行”。
前田敦子のPVでもあった。
撮影の目的は、巨大湖の幻の怪魚探し。
TVで放送されたらついつい見てしまいそうな面白そうなネタだが、黒沢清がすんなりバラエティー番組なネタを撮る訳がない。
メインは先にも述べたが、ヒロインの彷徨。
淡々と展開していき、“見る”より“感じる”タイプの作風。
作家性の強い黒沢清らしい作品ではあるが、好みは分かれそう。
でもちゃんと、海外ロケを行うTVバラエティーの苦労も。
トラブル続き、尺が足りない、イイ画が撮れない、何より現地の人との考えや価値観の違い。
大変だなぁ…。
そうやって我々は、TVで楽しませて貰っている。コロナが終息したら再び、TVバラエティーで海外旅を。
撮影クルー役に加瀬亮、染谷将太、柄本時生ら実力派。
現地通訳/コーディネート役のウズベキスタン俳優、アディズ・ラジャボフが好助演。
異国の地で五里霧中だった葉子が自分の夢をはっきりさせたのは、買い物の最中、美しい歌声に導かれナヴォイ劇場を訪れてから。
撮影NGの場所に入ってしまい、警察に身柄を拘束される…否、これは誤解で、ただ事情を聞きたかっただけ。心を開かないから、相手に伝わらない。話さないと分からない。
東京から届いた大事故ニュース。恋人の身を案じる。
それらを経て、葉子は確かに変わった気がした。
何をしたいか、何を伝えたいか、何が大事か。
日本とウズベキスタンの国交25年、日本人が建設に関わったナヴォイ劇場70年記念作。
双方の良さだけを伝える“接待映画”ではなく、双方の融通の効かない点や苛立ちも包み隠さず描き、そういったものもあって双方の交流がより魅力的に描かれている。
異国同士の交流。
葉子が解放したヤギの姿。
圧倒的なウズベキスタンの大自然の美しさ。
葉子自身も解放され、それらに抱かれ心の底からの歌声…。
世界の果てで、自分のはじまり。