「Hymne à l'amour」旅のおわり世界のはじまり いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
Hymne à l'amour
『トウキョウソナタ』から注目している黒沢清監督の最新作であり、随分長く劇場予告が掛かっていた為、否が応でも頭に残ってしまっていた。なにせAKB不動のセンター前田敦子の本格主演作としてのお手並み拝見感が強く印象づけられていたからである。
さて鑑賞後、どう感想を抱けばよいか非常に考えてしまったというのが正直である。まずは今作は結局、壮大なミュージックビデオ?それとも、音楽劇?それともテレビ番組のロケでのあるあるネタ?旅行ガイドブックの映像版?NHKで深夜放送のグレートネイチャー的、自然景観番組?等々、とにかく切り口が渋滞していて一体何を監督は訴えたい、届けたいのかの意図が理解に難いのである。なにか壮大なパズルのような、いや結局シンプルに『愛』というプロットを表現したかったのだろうか、絶妙と微妙の線引きがフワフワしてしまうような展開なのである。
そもそも、テレビクルーの話だから全体的に大変ダウナーな流れを印象づけながらモタモタ進んでいく。要所要所に、監督お得意の不気味さや非倫理観、この世の理不尽さみたいなモノを塗しながら、それでも何か内に秘めながら主人公のレポーターはせっかちに危なっかしくも広い幹線道路を横切りながら目的地へ向かうシーンが繰り返される。染谷将太の辛辣な演技も相俟って、その理不尽さは、遊園地の危険なアトラクションで爆発する。そして益々レポーターは自分の殻に閉じこもってしまい、日本に残してきた彼氏のみが心の拠所となる。しかし、実はADや地元コーディネーター兼通訳、もっと言うとウズベキスタン全体が、レポーターに対して救いの手を差し伸べているのにずっとそれが気付かないで、勝手に不幸を呪っているのだ。しかし、撮影禁止場所での違法撮影や、日本での石油コンビナート爆発による彼氏の安否等々が重なり、心が折れかかってしまう。でも、結局は彼氏は無事、アイデアで逃がした山羊も無事、で、最後は本来の夢であった歌手の夢をもう一度取り戻すように、天山山脈をバックに朗々と歌い上げるラストの『愛の賛歌』・・・
一つ一つのシークエンスは決して悪くはなく、健気に頑張る姿を映し出す演出は惹き付けられるのだが、如何せん、ブリッジがないから急に何かをぶっ込まれるような唐突感ばかり引っかかってしまうのである。そう、疑問付の繰り返しを、総てラストのエディット・ピアフの奴メジャ-曲と広大で荘厳なシルクロードの美しさ一発のカットで、鳥肌モンにしてしまう映像の麻薬みたいなもので強引に風呂敷を畳んでしまう感が凄いのだ。捕まったときの警察署内での刑事の諭しや、コーディネーターが語る旧日本軍捕虜の我慢強さ、優しさ、実直さの話、等々、差し込まれるプロットは大変感動するのに、何故だかそこはあまり拡げる手法ではなく、無造作に積み重ねるイメージである。こんなモザイクみたいな作品を監督は意図したのだろうか?、それとも読み解き、解釈できる力を自分が備わっていないのか?、結局、前田敦子は歌が上手いのか?等々かなりのクエスチョンマークを孕みつつ、しかしあのラスト画一発迄の伏線と思えばそういう作品も良いのではないかと思う爽快感も同時に抱く希有な内容であった。地産地消ではないが、曲の伴奏はウズベキスタンのオーケストラであり、その拘りも又重厚さを演出していたことも書き留めておきたい。