「事件の後は悲しみしか残らない」轢き逃げ 最高の最悪な日 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
事件の後は悲しみしか残らない
水谷豊の映画監督第2作目。
初監督の前作『TAP THE LAST SHOW』がイマイチだったので、本作もさほど食指そそられず、今頃になって鑑賞。
大傑作!とか、非常に優れたとかではないが、前作よりかはずっと良かった。
ある地方都市。
大手建設会社勤務のエリート社員の宗一と、親友の輝。宗一は副社長の娘と結婚が決まっており、公私共に順風満帆だった。
ある日、結婚式の打ち合わせに遅れ、表通りではなく輝の知ってる脇道を行く事に。その脇道の喫茶店の前で…若い女性を轢いてしまう。
周りに人気も無く、誰も見てない事をいい事にその場を立ち去るが…、すぐに事件となり、2人は心身共に困憊していく。
前半は加害者側から。
勿論轢き逃げは犯罪。
映画って不思議なもんで、加害者を主人公にした場合、いつバレるのかいつ捕まるのか、感情移入とまでは言わないがハラハラスリルさせる時がある。
本作も然り。
2人も気が気ではない。起こしたその時から。
ニュースや新聞をチェック。人目も気にし、常々連絡を取り合う。
自首すべきか、このまま何も無かった事にするか。
こんな事で人生を終わりにしたくない。2人が選んだのは…。
そんな時2人に届いたある封筒。中には、写真の動物の目。これは、誰かが見ている、もしくは誰かが見ていた事を意味している…?
宗一は無事結婚式を挙げるも…、監視カメラに映った車の映像などからベテラン刑事の柳と新米刑事の前田にマークされ、宗一と輝はスピード逮捕。
前半で事件は解決してしまい、後半はどうなるのかと思ったら、後半は被害者遺族側から。
被害者の両親、時山とその妻の千鶴子。
悲しみに暮れる2人だが、特に父親は生前母親と比べて交流無かったようで、喪失感が大きい。
娘の遺品から日記帳を見つけた時山。それによると、喫茶店が休みの日、その喫茶店の前に居た娘。何故…?
また、娘の携帯が無くなっている。
無くした携帯を探しにたまたま喫茶店の前で跳ねられた…?
それとも、誰かと待ち合わせていた…?
何にせよ、そんな事で娘は死んだのか…?
何故、娘は死ななければならなかったのか。
時山は独自に娘の死の疑問を解明しようとする…。
水谷豊が監督(脚本)兼時山役。
庶民役でもやっぱりあの名物刑事。見事鮮やか!…ってほどではないが、周りの同情や協力あって、真相に辿り着く。
娘は、意図的に殺されたのだ…!
後半は被害者遺族の悲しみのドラマと並行しつつ、ヒューマン・サスペンスと思わぬ真犯人のミステリー仕立て。
しかしながら、ミステリーはちと期待外れ。序盤のある台詞や娘の友人のスマホ映像から何となくすぐ分かってしまう。
加害者ドラマ、被害者遺族ドラマ、サスペンス/ミステリー…一つの轢き逃げ事件をきっかけに交錯する運命を描いているが、一見巧みのようで、一体主軸はどれ…?
水谷豊の演出は相変わらずオールド・スタイル。
真犯人は突然のサイコパス! 理解出来ない憧れと妬みの入り交じり。
そして、時山の不法侵入はお咎めナシ。
ツッコミ所も多々。細かい所は気になるんじゃあ…?
加害者のような被害者のような宗一。ラスト、彼が妻に掛けた言葉、手紙の独白は悲痛。
真犯人も捕まり、亡くなってから初めて迎えた娘の誕生日。少しは安堵の気持ちでいられるかと思いきや、泣き崩れる。
各々、一つの事件の“轢き”起こした代償はあまりに大き過ぎた。