「どの立場にも注がれる真摯な眼差し」轢き逃げ 最高の最悪な日 しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
どの立場にも注がれる真摯な眼差し
WOWOWシネマ「W座からの招待状」で鑑賞。
加害者、被害者遺族の視点の切り替えが鮮やかでした。どの立場の描き方も公平かつ真摯な眼差しで見つめられており、水谷豊監督の演出手腕が見事だなと思いました。
前半は加害者側の焦燥が描かれ、いつ逮捕されるか分からないというスリルがありました。このままラストまで、逃げ切るか捕まるかの緊迫した加害者の様子が描かれるのかなぁ、と思いきや、あっさりと逮捕されてしまいました…。
ここから何を描いていくのか気になりながら観ていると、視点が被害者の父親に変わり、娘の死に疑問を感じて独自に調べていく父親の捜査劇が展開されました。物語の様相が変化し、ミステリーの風味が現れ、意外な真相が明かされたりと、さすが刑事ドラマや2時間サスペンスに多く出演している水谷監督らしいどんでん返しだなと思いました。
加害者の贖罪、遺族の悲しみ…。虚しい事件の真実により、元々一筋縄でいかない問題が、余計に痛みを伴って、突きつけられて来たように感じました。
壊れるのは一瞬。その後に待っているものは再生なのか、それともさらなる崩壊なのか…? だが、どれほど残酷な出来事が降り掛かろうと、生きていかなくてはならない…。
もしかすると、彼らに待っているのは、生き地獄なのかもしれない…。両者が、一生消えることの無い痛みを抱えたまま、何に光を見出だせば良いのか? ―心が重くなったところで、ラストシーンに救われたような気がしました。
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番組ナビゲーターの小山薫堂と信濃八太郎のエピローグ・トークでも言及されていましたが、亡くなった娘の誕生日を祝った母親が泣き崩れるシーンに泣かされました。
それまで悲しみに暮れること無く過ごしている様子だったので、「娘が死んだのに、こんなもんなんかな?」と違和感を覚えてしまいましたが、誕生日を祝ったことで、もう永遠に歳を取ることがない娘の死を実感し、堪えていたものが決壊したのかもなと考えると、涙が止まりませんでした。
【余談】
真相を探るために、加害者の住居に不法侵入までした被害者の父親でしたが、おとがめ無しのような感じだったのが釈然としませんでした。結果的にそれが犯人再逮捕に繋がったから、不問とされたのでしょうか? だけど、あの特命係の変人警部なら、絶対に許さないだろうなぁ~(笑)