「水谷監督の人柄がにじみ出ている」轢き逃げ 最高の最悪な日 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
水谷監督の人柄がにじみ出ている
違いの分かるマニア以外には、IMAXとの差が分からないであろう、日本映画初の"ドルビーシネマ"作品である。
技術的な仕様ゆえに、「相棒」シリーズの劇場版をはじめ、水谷豊作品に長く関わってきた撮影監督の会田正裕氏のサジェスチョンの影響が大きいと思われる。
"ドルビーシネマ"は、"ドルビーアトモス"+"ドルビービジョン"であり、日本映画初のドルビーアトモス作品は、押井守監督の「THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦」(2015)なので、本作は、どちらかというとHDR(ハイダイナミックレンジ)のドルビービジョンのメリットを汲んで作られている。
このこだわりが、一般に分かるかどうか疑問だが、多くのハリウッド映画のエンドロールで、"ドルビーアトモス"と"ドルビービジョン"のロゴマークが表示されている。映画製作者に支持されている、ハリウッド・スタンダードがようやく日本映画に現れたことを喜びたい。
さて作品は、俳優・水谷豊が60歳を超えて監督業に打ち込みはじめた第2弾。脚本も書き下ろしで、"表現したい"という気持ちがひしひしと伝わってくる。
前作「TAP THE LAST SHOW」(2017)も、ダンスシーンのクライマックスの迫力から、"タップダンスが好きなんだなぁ"と水谷の趣味を強く感じた。
今回は、"ひき逃げ事件"の加害者心理と被害者心理の動きを描いている。
面白いのは、いきなりひき逃げ犯の視点で始まるところ。犯人の罪悪感と、逃げ切れるかという不安との、はざまで揺れる緊迫感は大したもの。それでいて、あっけなく事件は解決に向かう。
そこからが監督の描きたい、人間性の部分に突入していく。
被害者の立場に寄り添いながらも、懺悔する犯人を同情的に描いている。そのため結局、ひき逃げは、被害者と加害者の偶然性の産物というように感じてしまう。
そして反省している犯人を断罪するわけでもなく、さらに真相は意外な結果になるので、どうしても被害者の空しさだけが残ってしまう。
想像だにしない意外な結末がある。
結局、"悪いヤツはコイツ"という攻撃の納めどころを用意したのは、水谷監督の人の良さが出たかもしれない。けれど中途半端でサイコ映画にもなっていないため、なおさら空しさは強まる。
おおざっぱな設定は愛嬌。甘すぎる。もっと設定のための取材と考証を緻密にしたほうがリアリティが出たはず。実際の会社組織を知らないのか、ツッコミどころ満載。
一方でキャスティングは、水谷監督の俳優キャリアと人脈によるセレクトで固められている。お友達映画にも見えるが、出演者ひとりひとりの演技がしっかりしているのが好感。
(2019/5/10/ユナイテッドシネマ豊洲/シネスコ)