「ポノックの実験的プレゼンテーション」ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
ポノックの実験的プレゼンテーション
スタジオ・ポノックの劇場第2作。"ポノック短編劇場"と銘打たれた、今後シリーズ化しそうなパッケージである。「カニとタマゴと透明人間」は、それぞれの短編タイトルをつなげただけだ。
短編3作がセットにされた60分(20分弱×3)で、3作それぞれのタッチがすべて異なり、監督アニメーターの実験的な作品になっているが、ストーリーはお子さま連れ向け。
しかしそのポジショニングは、"実験場"、はたまた"ポノックのプレゼンテーション"とでも呼ぶべきものになっている。
短編で実験的なチャレンジをするといえば、ディズニー/ピクサーである。興行長編作品と同時公開される短編は、若手アニメーターたちのチャレンジの場だったり、3DCGの技術的な挑戦だったりする。
上映中の「インクレディブル・ファミリー」でも、中華系カナダ人で、ピクサー初の女性監督であるドミー・シー氏の「Bao (バオ)」がセットになっている。
食べようとした"肉まん"から手足が生え、愛息として育てていく母子のストーリーだが、食べ物を主役した斬新さ、その質感やシズル感のリアリティが驚きだ。
話を戻そう。ひとつめの「カニーニとカニーノ」は、川底で生活する擬人化されたカニの兄妹が、父親を捜して冒険する。舞台である川の表現において、3DCGを駆使した、生きた水の流れを再現している。そこに手描きアニメーションをハイブリッドした変わった映像を見ることができる。
「サムライエッグ」は、テーマが"こどもの卵アレルギー"という異色の設定だ。ジブリで高畑勲監督の右腕として活躍した百瀬義行監督作品。
そして「透明人間」の山下明彦監督は、キャラクターの表情で演技をつけるアニメにおいて、あえて"顔がない主人公"に挑戦した。「ハウルの動く城」(2004)の中心アニメーターのひとりである。
2013年の宮崎駿の引退宣言以降(2017年に撤回)、日本アニメ界はポスト・ジブリをめぐって群雄割拠だ。オリジナルメジャー作品も、細田守や新海誠、山田尚子、はたまた湯浅政明や片渕須直などなど、人的にはアニメ界の未来は明るく見える。
一方でジブリを事実上引き継ぐのが、ジブリのアニメーター100人以上が移籍したスタジオ・ポノックである。人的ソフトはジブリそのものであるため、そのキャラクターデザイン、画風、ファンタジー性は、正統的な継承者となっている。
映画は実写・アニメに限らず、製作コストとの闘いである。才能ある実力ソフト所帯であるポノックの台所事情は分からないが、"宮崎駿"の看板があってこその投資がままならないのは想像に難くない(日テレは細田さんだし)。
このプレゼンテーションみたいな短編作品が生まれた背景が透けてみえる。もちろんピクサーのような余裕はない。60分で1,400円は応援投資でもある。
(2018/8/25/TOHOシネマズ日比谷/ビスタ)