「チャンバラ映画に殉愛す。」多十郎殉愛記 しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
チャンバラ映画に殉愛す。
Amazonプライム・ビデオでレンタルして鑑賞。
中島貞夫監督20年ぶりのメガホンによる正統派チャンバラ映画。日本が世界に誇る時代劇、その格調高き香りが漂う、巨匠渾身の一作と呼ぶに相応しい作品でした!
自堕落な生活を送っていた長州脱藩浪人が、愛する者を守るために、京都見廻組の追手と、多勢に無勢な大立ち回りを演じてくれました! 決死の覚悟で戦う高良健吾の目力がハンパない! 殺陣のときの必死な表情に、色気が漂っていました。
ラスト30分の間に繰り広げられるチャンバラは、手に汗握る迫力と気迫でした。竹林に誘導するために走り回った挙げ句の死闘だったので、多十郎がヘトヘトの状態だったのは気に入りませんでした。もしかしたら高良健吾は殺陣がヘタクソで、それを誤魔化すためだったのか? ―と疑ってしまいましたが、見廻組隊長との一騎打ちでは目の覚めるような動きを見せてくれたので、引き付けられてしまいました。
往年の映画監督って、総じて女優の演技を色気たっぷりにフィルムに刻み付けるのが上手いなぁ、という印象を抱いていました。中島監督も例外ではなく、多部未華子をこんな風に撮っている作品って、これまであまりありませんでしたので、巨匠の腕があってこそだなと思いました。
多十郎とおとよの恋に関して、若干の描写不足は否めませんでしたが、従来のチャンバラ映画を蘇らせたという点で、監督の誇りと矜持、消えようとしている伝統を保護しなければならないという強いメッセージが伝わって来ました。
――
監督としては、長年時代劇で活躍してきた名優たちにも出演して欲しかったはず…。しかし残念なことに、次々とお亡くなりになられています…。個人的に、松方弘樹の殺陣は絶品だったなぁ、と思います。美しい体捌き、流れるような剣術、動きの緩急の見事さ―。もはや、ひとつの様式美だな、と…。
近年、「るろうに剣心」シリーズなどで、チャンバラ・アクションにも新風が吹き込まれていますが、正統派の技もきちんと継承して欲しい…。日本唯一である時代劇、チャンバラ映画を途絶えさせるわけにはいかないですから…。