「いい映画だが、娯楽性にとぼしい」教誨師 うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)
いい映画だが、娯楽性にとぼしい
ドキュメンタリーフィルムのような地味な映像をナレーションなしで見せられているような映画。基本的に対話だけでストーリーが進行していくが、大杉連のキャラクターと、対峙する死刑囚たちの個性がうまくマッチして、ずっと見ていられる。退屈でくだらない芝居がかった映画と違って、限られた予算でここまで面白くできるという見本のような映画だと思う。
ただし、主人公の背景をもう少し掘り下げて、不幸な兄との別れをドラマティックに語ってほしかった。それから、6人の死刑囚の取り上げ方が公平なのはいいが、誰の死刑が執行されるんだろうとか、えん罪っぽい人が救われることはないんだろうかとか、気になるポイントにウエイトを置いて、ストーリーを進行させてほしかった。そうなれば、死刑の執行に感じる部分も多かっただろう。
教誨師という仕事を取り上げた以上、罪の裁きを受けることよりも、執行までの限られた時間に罪と向き合い、前を向ける人間らしさを与えることに重きを置いて会話が進んでいく。「神様はそんなあなたでも許してくれます」という絵空事のような言葉を、むなしく繰り返すしかない牧師の立場を大杉漣(字がない)が熱演している。
文部省推薦の、講堂で生徒が揃って見せられるような映画で、お金を払って週末の娯楽に家族で見にいくような映画ではない。何かを考えさせられるような内容で、確実にそれぞれの心になにかを語りかけてくるが、ひと言で言って娯楽性にとぼしい。それもまた映画なんだ、と言われればそれまで。
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