「現代の日本で見つけたカフカの不条理世界」審判 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
現代の日本で見つけたカフカの不条理世界
フランツ・カフカの同名小説を、現代の東京に舞台を移して映画化したものです。
銀行に勤める木村陽介(にわつとむ)。
30歳の誕生日の朝、目覚めると、自宅マンションのベッドの横に見知らぬふたりが立っていた。
まもなく逮捕状が届くはずだ、今回はそれに先立っての調査である、という。
逮捕と告げられるが、身に覚えはない。
ほどなくすると逮捕状が届き、出廷するようにと書かれているが、時間も場所も不明。
当日近所をうろついていると、電柱に廃校になった小学校に簡易裁判所らしきものがある旨の貼り紙を見つけ、ようやくたどり着いたが、そこは体育館の中に十脚ほどの机が並べられ、裁判所ごっこでもしているかの様子。
こともあろうか、裁判官を名乗る男の後ろでは、女性が洗濯物を干しているといった有様だった。
そして、そこでも罪状は告げられず、口にした不平は調書に記録され、一週間後に再び出廷するようにと申し渡される・・・
といったところから始まる物語で、カフカの小説は読んだことはないが、かなり原作に近い内容のようだ。
1962年にオーソン・ウェルズ監督、アンソニー・パーキンス主演で、1992年にデイヴィッド・ジョーンズ監督、カイル・マクラクラン主演で映画化されているが、これも未見。
ただし、1991年にスティーブン・ソダーバーグ監督が撮った、カフカの実人生に『審判』と『城』を盛り込んだ『KAFKA/迷宮の悪夢』は鑑賞している。
カフカの不条理小説は、本来は、石造りのヨーロッパの街が似合うのだろうが、現代の日本でも違和感がなかった。
特に、前半。
体育館の中でつくられた、おふざけのような裁判所などはシュールの極みで、曖昧模糊とした官僚主義の、形式はあるが中身はないところを的確に表現している。
また、それまで挨拶も交わしたことがなかった隣人の女性が、主人公が逮捕されるとなると、俄然興味を示し、なぜか彼のことを事細かに知っているあたりも、妙なリアリティがある。
たぶんに、あまり有名でない俳優たちが演じることで、リアリティが生まれているのかもしれない。
なので、高橋長英や品川徹といった顔なじみのベテラン俳優が登場する後半は、リアリティ感が薄れてしまっていて残念。
特に、品川徹演じる寝たきりの弁護士が登場するシーンでは、周囲の登場人物も含めて出来の悪いコントのよう。
主人公に逮捕を告げに来るふたりのうちのひとりが繰り返し繰り返し見る夢を、そのうち主人公が見はじめ、夢に登場する奇妙な建物が現実に登場する終盤は、70年代の映画風でかなり好み。
主人公には衝撃の結末が訪れるが、もしかしたら、われわれだって同じような顛末をたどるかも・・・と思わずにはいられない。