「シビュラによるグレーな世界」PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.1「罪と罰」 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
シビュラによるグレーな世界
「サイコパス」の新しい劇場版三作の第一弾なのだが、このシリーズはなかなか厄介な代物で、本作の前にある劇場版とTVシリーズの一期と二期がずっと繋がっているストーリーなので、観ていない場合は半分くらい意味がわからないだろう。
ただ、折角の面白いポイントに気づけないだけで大筋のストーリーは理解できると思う。
それでも「理解できる」と「面白い」の間にはとてつもない隔たりがあると思うので、本作だけ観るのはオススメしない。
TVシリーズ一期のときはシビュラというシステムが人を管理する、ある種のディストピアもので、犯人を追う捜査とシビュラの謎がメインだった。それが一段落というか、シビュラの謎が明らかになったあとは、ディストピア感を薄れさせ単なる世界観の設定に落とした。
これが悪いというわけではない。結果としてSF刑事ドラマに生まれ変わったのだ。
本作の主人公である霜月美佳は、TVシリーズ二期から登場し脇役だった。そんな彼女が人間らしさ人間臭さを発揮しながら、眼鏡を外しやたらとクールになった宜野座と共に熱く捜査をする。
初めて霜月に共感したくらい、彼女の成長を感じることができて嬉しかった。旧劇場版と本作の間にどんな変化があったか知ることが出来なかったのは少々残念だけどね。
「サイコパス」の特長は、シビュラによって善悪の境界が強制的に引かれているにもかかわらず、本当の善悪の境界が曖昧なことにあると思う。
その曖昧さを利用して、省庁同士の政治的な権力争いがあり面白いし、公安の霜月や常守朱はシビュラのグレーな部分を上手く駆け引きに使って立ち回るのもまた面白い。
敵でも味方でもないシビュラ。それを承知で自分のやりたいことをやる公安の主人公たち。
白黒つけられた世界でも結局人間はグレーなんだな。