「コンビニシーンにシンパシーを感じる人向け」空母いぶき くりあさんの映画レビュー(感想・評価)
コンビニシーンにシンパシーを感じる人向け
対象視聴者が限定的。
政治も外交も軍事も、なんとなく雰囲気だけで判断して調べもしない「普通の人」向けに、周辺有事という時事ネタを使って、それっぽく作った現実味のない作品。
メインストーリーの展開を左右することのない意思決定に割かれる時間が長い、つまり物語上の無駄シーンが多すぎて低評価である。
その最たるものであるコンビニのシーンは、「普通の人」の想像力が及ぶ範囲ぎりぎりの「リアリティある非現実」なのだ。
周辺有事で何が起きるかを想像した時、「普通の人」が考えられる精一杯があれなのだ。
自衛官同士の意識の違いや政治家の駆け引き(本作ではそれもダメダメだが)を見せられても、それが実際に起こりうる現実的な描写であったとしても、対象視聴者には「よくわからないからリアリティが薄く感じる」から、「濃厚なリアリティ描写」としてコンビニシーンがあるのだ。
だから、一般人の日常生活から離れれば離れるほど、ディティールが甘くなっていく。
編集部のシーンも実質「普通の人」視点である。
艦内から衛星電話で直接動画を上げているから、編集部での行動がなんら対局に影響を及ぼしていない。
物語の展開上、状況が一般公開されていないから仕方なく「ざわざわする一般人」としての役割を担っているだけだ。
だが、リアリティを感じさせるためのたらこおにぎりなどのディティールは細かい。
政治家のやりとりもほぼ不要だ。
相手国の設定を非実在国にしてしまったせいか、外交チャンネルがなくて交渉と呼べるものが何もできておらず、政治ドラマとしての葛藤も決断も描写されない。
水面下の外交活動があることは暗示されるが、駆け引きのディテールが一切なく、状況待ち連絡待ちが描かれるのみである。
総理のキャラクター設計に無理があり、「反対を押し切っていぶきを導入した強い目的意識」の面と、「自衛官の犠牲には無頓着で何があっても戦争はしないという理念だけの弱腰」との不整合が、そこにしか見せ場がないゆえに浮く。空母をおもちゃと呼んだことに対する回想も、あのタイミングでやるのは状況がままならないことへの単なる八つ当たりである、
海上警備行動を発令しておいてマスコミ発表がないなんてありえるのか。
そもそも官邸の動きにマスコミが気づかないのもありえるのか。
ディテールかボロボロだ。
艦内だけに絞って、政治の思惑は通信だけでくる脚本にした方が良かったのではないか。
それでも、「何が起きてるのか一切知らされていないし直前に帰ると言ってたのに、なんのきっかけもなく突然記者魂に燃えて残ると言い出す」とか、「相手から攻撃されるまで手を出さないと潜水艦をやり過ごしたが、直前にそいつから対艦ミサイル食らってエレベーター壊されとるやんけ」とか、「ピン打ちまくってて相手に気づかれてないとかあるわけあるか」とか、「いぶきがちんたら進んでる間に相手潜水艦も艦隊も超高速で展開してくるな」とか、「世界中で動画をみられるシーンの、半日もたってないのに世論形成されるわけあるか」などなど、ツッコミどころが多いのだが……。
事態に対応する政治ドラマとしては「シン・ゴジラ」の足元にも及ばず、仮想有事のフィクション娯楽作品としては「ハンターキラー 潜行せよ」ほどの納得感もない。
随所に出てくる政治家や自衛官の覚悟や決意表明のシーンは、おそらく原作では名言ともいえる決め台詞なんだろうが、本作では薄っぺらい土台の上に乗っているので現実を見ていないお花畑発言にしか見えない。
夢物語にしか見えなくてキツイ。
これをリアリティあるという人がいるのがキツイ。
キツイので星1。
一番リアリティを感じたのが「記者会見でクソ質問する記者」だったのが何よりキツイ。