劇場公開日 2019年5月24日

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「戦争回避に奔走する人々の葛藤を描く骨太なドラマ」空母いぶき よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0戦争回避に奔走する人々の葛藤を描く骨太なドラマ

2019年5月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

遠くない未来の日本。国籍不明の漁船団が波留間群島初島を武力を持って占拠。海自は訓練航海中の航空機搭載型護衛艦いぶきを旗艦とする第5護衛隊群に現場海域への出動を命じるが、行く手を阻むミサイル攻撃。その向こうには東亜連邦の艦隊が展開していた。反撃すれば戦闘になる・・・未曾有の緊張状態に陥るいぶきには過剰装備だという国民の疑念を晴らす目的で記者2名を搭乗させていた。

潤沢な予算のもとで製作される諸外国の戦争映画に対して、ドメスティックなマーケットでなんとかペイする程度の予算しか捻出できないであろう邦画で敢えて本作を世に問う、一体どんな勝算があるのかが一番の関心事でしたがなるほどと思わず膝を打つアプローチ。まず敵をほぼ一切描写しない『トップガン』方式を採用。リアルな戦闘描写も本当に必要なものに絞り込み、後は音と微かな光や振動で表現。極度の緊張状態に晒される人々の焦燥を至近距離で捉えるカメラワークは最近のハリウッド産のドラマで流行っているスタイル。これはただカメラを人物に寄せてるだけではダメで、ちょっとした仕草で感情を表現出来る演技陣に繊細な演出を施して初めて成立するもの。このスタイルを選択するにあたってはキャスティングも相当慎重になったものと想像します。実際西島秀俊、佐々木蔵之介、藤竜也、佐藤浩市、中井貴一、高嶋政宏、斉藤由貴他イイ顔のベテラン陣を贅沢に配置、客寄せパンダ的なイケメンやアイドル起用もほぼ皆無と徹底的にストイック。

そして何よりこれが国家間の戦争を派手に描く映画ではなく、あらゆる手を尽くして戦争を回避しようと葛藤するドラマである点が実に見事。凡百の戦争映画では軽視されがちな画面に映らない人々の命に寄り添い一喜一憂する繊細さは実に現代的。クリスマス商戦の準備に忙しい中井貴一演じるコンビニ店長の一日と世界を震撼させる日本で一番長い日を並行して描くという、『バイス』にも似たユニークな構成が物語を分厚くしているので後半はもう泣けて泣けてしょうがない。わが祖国にはまだこんな骨太の映画がある。それが判っただけでも胸がいっぱいです。

色々あらぬ物議を醸していた佐藤浩市の演技は物凄く繊細で素晴らしいもの。正直私も『顔』以外の佐藤浩市は好きではありませんでしたが、本作で化けたと思います。意外なところでは斉藤由貴がアホみたいにキュートでビックリしました。監督は『ホワイトアウト』の若松節朗、このままグローバルなシーンで活躍して欲しいです。

よね