「言葉より行動」家(うち)へ帰ろう KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
言葉より行動
過去を踏みしめ、現在を愛し、未来に向き合うと決めたおじいちゃんのロードムービー。
厳しさも感じるけれど優しさに溢れていて、予想以上ボロ泣きしてしまった。
88歳の脚を患う老人の決して短くない旅は、何かハプニングが起こるたびにハラハラする。
お金の余裕は心の余裕。宿にて盗難にあってからの彼の弱りっぷりはしんどくいたたまれない気持ちになった。
しかし旅中に出会う人たちは近くにいた家族よりもずっと親身で暖かい。
あのうちの誰か一人でも出会えなかったら旅は途中で終わっていただろう。
アブラハムもだけど、出る人出る人なんだか癖アリで魅力的。
飛行機でのアブラハムの策士っぷりが好き。
なんてウザい老人なんだ、と思いきやの寝床確保。
フライトの間レオナルドはどこに行っていたんだろうか。
出会い方は良くなくても懐くと素直でいいヤツ。
宿の女主人マリアの歌には痺れた。辛辣な身の上話。
つっけんどんな態度とそれでも優しくユーモアに溢れて的確に導いてくれる素敵な人。
多数いる子供の中で唯一「愛してる」と言わなかったクラウディア。
形式だけの上塗りの言葉を嫌がる彼女の腕に刻まれた深い情にハッとした。言葉より行動、キスよりタトゥーとお金を。
なかなか素直になれないアブラハムが以前の発言を謝罪したうえでお金を求めた時、彼女は傷ついたような顔をしていたけど大丈夫だろうか…。
でも特に詳しく聞かずお金を貸したことから、父に対する信頼と愛情が表れていたのかもしれない。
ナチスのユダヤ人迫害を身をもって体験したアブラハムにとって最も忌まわしき地であるドイツを通る際のくだりがとても好き。
多言語を扱うドイツ人学者のイングリッドにいくら親切にされようと、その国籍だけで拒絶の意を示してしまうアブラハム、頭では分かっていても感情が付いていかないんだろう。
額にキスされた時の驚いた顔が好き。言葉より行動、説得よりキスを。
ドイツの地を踏まないための策、あまりに単純でおかしくて、それが異様に胸に刺さって大泣きしてしまった。
敷いたイングリッドの服をたたむところに敬意と謝意が表れている。
そして自らの悲惨な体験を少し聞かせるとき、ちらほらと過去の映像を挟み込んでいたのでここも回想の映像が入るかと思いきや、彼の言葉だけでサラッと聞かせる演出にやられた。聞いた話じゃない、この目で見たんだと。
話を終えて次の電車に乗るときはきちんと地を踏んで歩くアブラハムにまた涙腺崩壊。
ドイツ人のイングリッドと心を通わせたことで何か小さな変化が起こり、過去をきちんと踏みしめて進むことができたことに感動した。
とはいえトラウマとは簡単には離れないもの。
電車内で過去の幻覚を見て倒れしまうのも致し方ないのかもしれない。そもそも体調が良くはないのだから。
ワルシャワの病院で出会った看護師ゴーシャはまた親切で優しい人だった。
ゴーシャを連れて70年ぶりのポーランドはウッチの街に来たアブラハムの緊張に溢れた顔付きに、自分もどんどん緊張して身体が強張ってくる。
街並みは変わっていてもかつての家の周りはそのまま残っていて、家の扉も使用人室の入り口もそのまま。
しかし住む人もそのままとはいかないのも現実。
会うのも会えないのも、ただ怖い。
親友ピオトレックとの邂逅、その見せ方があまりにも上手くて最後に大号泣してしまった。
一度ガッカリさせてからの窓越しの不意打ちはずるい。最高です本当にありがとうございます…。
多くを聞かず、70年寄っていなかった場所へ「家へ帰ろう」と言ってくれるピオトレックの言葉は、家を売られて老人ホームに入居予定で帰る家を見失ったアブラハムに大きく響いたと思う。
二人が家に入って、ゴーシャがその場を去って終わりの構成にじれったく感じるのもまたニクい。
その後のことを色々考え巡らせるのが止まらない。
アブラハムとピオトレック二人で余生を楽しく生きていくんだろうか。
ワルシャワの病院に通いリハビリを続けながら。
そして家出に残された家族たちはどうしているんだろう。クラウディアから連絡は行っているだろうけど。
クラウディアに関しては、お金を貸した時の事情が後からきちんと説明されているといいな。
さすがに会う人会う人が不自然なほど旅を支えてくれるので、あまりに綺麗に収まりすぎてこんなことあるかね!と思ってしまうけど、それがこの映画の醍醐味なのでは。
亡くなった友人の形見を常に身につけているアブラハムから彼の人情が垣間見えて、癖はあるけどそういうところが無意識に人を惹きつけるのかなと思った。
さすがは仕立て屋、アブラハムのファッションが非常にお洒落で眼福であった。
派手なスリーピースにハンチング、スカーフ使いも完璧。飛行機で寝る際、ハンチングを頭に敷かないで大事そうに抱える姿が可愛い。
はるばる届けたスーツは「別れの際に渡された型紙」を使って仕立てたとのことで、おそらく今のピオトレックの体型には合わないと思うんだけど、二人の家の壁に大事に掛けてあったりしたら良い。
ピオトレックだいぶ体型変わってましたからね!一応試着してみてパツパツのところを二人で笑い合ったりして。
ウッチとワルシャワそんなに遠かったんですね!
それは確かに厳しそう…ヨボヨボ同士だし笑
持ち前の周りの人を味方につける力でなんとか楽しく生きていって欲しいです。
物語後の想像が面白いですね。そうですね、サイズ合わないですね。
私も ゴーシャそこに車椅子置いてくのかよ👋🏼〜から始まり〜有り金失い異国の母国で老人同士支え合って余生を過ごすのか‥ と脚の悪い義父を見てるので心配になったり。ちなみにゴーシャが聞いた途端盛大に溜め息を吐いた街ウッチ→ワルシャワ間は調べると車で1時間半 or 電車で2時間らしいので通院には厳しそう。