ペンギン・ハイウェイ : 映画評論・批評
2018年8月7日更新
2018年8月17日よりTOHOシネマズ新宿ほかにてロードショー
世界は謎だらけ。だから世界は素晴らしい
また一つ傑作アニメが生まれた。それも若い新しい才能によって。本作の中核を担う石田祐康監督とキャラクターデザインの新井陽次郎はこれまで「台風のノルダ」や「陽なたのアオシグレ」などの短編映画を制作、その爽快なアニメセンスで知られていたが、それを活かせる最高の題材を得て、長編映画でもその才能を見事に発揮してみせた。
ある日、街中で大量のペンギンが目撃される。研究熱心な小学四年のアオヤマ君は、この謎を解くべく奔走するが、調べれば調べるほど謎が増すばかり。もう一つのアオヤマ君の関心事は、歯科医院で働くキレイなお姉さん。屈託のない性格の女性だが、どこかミステリアスな存在。その2つが奇妙に交錯すると、謎はますます深まるばかり。しかしアオヤマ君の探究心は俄然燃え上がる。
ペンギンの突然の氾濫も、お姉さんとペンギンの関係も荒唐無稽で意味不明である。しかしそのことがちっとも不快じゃない。なぜなら子どもの頃に出会う、世界のあらゆる謎は、最初は意味不明なものだったはずだから。
小さい頃、世界は広かった。世の中にはわからないことだらけで、だからこそ調べるのが楽しく、調べれば調べるほど、世界は広がっていった。しかし、大人になるにつれ、そんな探究心はどこかに行ってしまった。それどころか、わからないものに接すると不安を覚えることさえあるようになった。
でも、そんな自分もかつては世界の謎に目を輝かせていたはずなのだ。本作はその頃の宝石のような思い出を、見事に蘇らせてくれる。弾むお姉さんの胸、空を飛ぶペンギンたち、どこまでも拡がるかのような海の世界。少年たちの探究心に合わせてどこまでも拡張していく世界を伸びやかなアニメーションで表現してみせた。
もしあなたが人生を退屈に感じているなら是非本作を観てほしい。きっと子どもの頃に持っていた世界に対するワクワク感を取り戻させてくれるはずだ。
(杉本穂高)