ブリグズビー・ベアのレビュー・感想・評価
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人が物語を必要とする理由
人が生きていくために、物語が必要なんだと思う。本作はそんな物語の力を信じている。外界から隔絶された環境で、ニセの番組を観て育った主人公にとってその番組は世界の全て。その番組の作られたいきさつはどうあれ、主人公はその番組から人生の大切なことを教わった。
人はこの世界を物語を通して学ぶ。ギルガメシュ叙事詩の頃から人は物語を通して世界と人生について学んできた。この映画は、そんな人と物語の関係についての深い洞察がある。
フィクションは事実ではない。しかし人はフィクションから世界の真実を学ぶ。偽物の両親が作った偽物の番組であっても、そこには何かの真実が宿っている。
良くも悪くもスターウォーズという映画史でも一際有名なフィクションに人生を変えられたマーク・ハミルがこの映画にキャスティングされているのは大正解だと思う。役から発する彼のセリフは彼自身の人生も投影されているような説得力がある。
こんな映画だとはつゆほども思わなかった、意外と深くて刺さる掘り出し物の一本
実に奇妙な一作だ。可愛らしいクマさんをめぐる冒険活劇かと思いきや、冒頭からすでにコメディともシリアスともつかぬ線上を綱渡りするかのような、なんとも言えない妙味が炸裂。序盤は『トゥルーマン・ショー』などでおなじみの「メタ・フィクション」というテーマを濃密に描き込み、中盤からは『桐島、部活やめるってよ』のような「自分の手で映画を撮ろう!」的な高揚感あふれるダイナミズムを発動させる。かくも一粒で二度おいしいではないが、一本の中にいくつもの趣向やテーマ、メッセージ性が内包され互いに影響を及ぼし合うのを堪能することができる。
作り手によると「『自分にとっての全て』と思い込んでいたものが突如終焉を迎えた時、人は一体どうするのか?」に焦点をあてた作品でもあるとのこと。人間の生活、人生、暮らしのみならず、宗教、国家、文化に置き換えたとしても多元的で複層的な解釈ができる、極めて現代的な作品と言えそうだ。
二律背反の窮屈さからグレーゾーンへの脱出!
幼児誘拐と拉致監禁、本来ならものすごくどんよりするテーマだが、尾の映画はふんわりと優しいコメディ仕上げ。しかし決してキレイごとではない。
善か悪か、本物か偽物か、現実かファンタジーか。二者択一するにはこの世界は複雑で曖昧に過ぎるし、ムリに切り分けるとこぼれ落ちてしまう大切なことがいっぱいある。この映画は、そんな二律背反の堅苦しさから、キャラクターを、映画を、人生を解き放ってくれる。
清濁併せ吞む、というほど大仰でなく、ただ目の前のできること、やりたいことを積み上げていけば、幸せは見つかるのではないか。
もちろん現実はこの映画よりどす黒く、汚いかも知れないが、この映画程度のささやかな善意や希望は望んでもいいのではないか。
ネタバレが怖くて曖昧なことしか書いていませんが、本物の「いい映画」に出会えて本当に嬉しい。
ジェームスの「好きなこと」は
やっぱり一番すごいのは、この設定なら普通はこんなストーリーになるんじゃ?みたいな、ある意味常識といってもいいようなことを吹っ飛ばしてちょっと違うストーリーにしているところだよね。
とはいっても完全に無視しているわけではなくて、ジェームスはもちろん、本当の両親も、偽の両親も、痛みや苦しみは節々からみてとれる。ただ、強調して描写することがなかっただけでさ。
痛みはあるけどあえて見せない優しさがいいよね。
ではどんな物語だったかというと、勇気と、好きなことを諦めない気持ちと、最終的にはジェームスが現実という光の国で生きていく立ち直りの物語だったよね。
ジェームスの好きなことというのがブリグズビーベアだと思うかもしれないけど、ブリグズビーはジェームスが自分を投影した勇気の形、自分を表現し伝える手段というだけで、彼が本当に好きなことはもう少し先にあるのもいいよね。
ラストシーンでブリグズビーが手を振ったあと、ジェームスの中の光の国と現実世界が同一になり、更にもっと「好きなこと」に邁進するのかなとか考えると自然と笑みがこぼれるよね。
スターウォーズ・ファンをやめてしまう前に
これはどう見てもジョージ・ルーカスの生涯を意識した映画だろう。
彼が映画作りに情熱を傾けて「スターウォーズ」で成功を収めるまでにたどった数奇な運命を、ジェームズ青年に重ね合わせて描いてある。
個人的な出来事で恐縮だが、「最後のジェダイ」はひどかったと今でも思う。それでも劇場に3回見にいったし、今年予定されている新作も楽しみにしている。しかし、友人の一人は、もうファンをやめてしまった。レイアの「あれ」を見てしまった後に、何とも言えないむなしさを覚え、熱心に集めてきたフィギアなんかも手放し、「ハン・ソロ」も見たいとも思わず、何を話してもなしのつぶて。実に残念なイベントだった。ライアン・ジョンソンは罪作りなことをしたものだ。
そう考えると、この映画は、ファンにとっては刺さりまくる演出が、そうじゃない人にはただのガラクタに見えるし、実際にガラクタなのだと知らしめてくれる。そして、ジェームズ青年の育ての親、マーク・ハミルも、ファンタジーな設定を奇妙なほどピタリとはまって演じている。彼がいなければ、この映画は本当に成立しない。
友人にもう一度言いたい。「せめて、ファンをやめる前にこの映画だけでも見てよ」と。
2019.6.10
安心して観られるし、ちゃんと笑える暖かいコメディ!
ストーリーの大筋は知っていたけど、ジャンルはコメディだと思ってたらから、前半のエモーショナルな雰囲気に驚いた!
音楽も画もしっとりとしていて、「バカコメディではないんだな〜」と。
最初の、「空気が汚染されてるから〜」とかのところは、大筋知っていてもうまいことミスリードされて、「どんな世界線なんだ…!?」とグイグイ引き込まれたので、前情報なしで見る方が面白かったかも。
ホームパーティ(?)のシーンは、世間知らずな主人公がなんか若者に陥れられたりするのかなぁと思ってビクビク観てたけど、みんなほんとに優しい人たちでよかった。笑
刑事さんから、ベアの頭や小道具を受け取るときの、「本物だ!これはアツすぎる!」とウキウキしてるのが、クマガチ勢って感じで面白かった!笑
友達に布教してビデオ貸して、2人で「あのシーンやばいよな!!」と言い合って…少年って感じでよかったし、作品を共有できて嬉しそうな主人公の表情がよかった。
友達くんが、古いSF好きっていうのも納得できるところだったし、ブリグズビーベアのビデオの感じや設定もめちゃくちゃそれっぽくて面白かった!
劇的な状況に置かれてたのに主人公が終始あっけらかんとしているのも、ほんとにクマのことしか考えてないのも可笑しかった!笑
周りの友達や昔の家族や今の家族が、総じてみな優しかったのが良くて、安心してみられる作品だった。
主人公が、「昔のパパ」と呼ぶのがよかったし、刑事さんや新しい両親も、主人公との付き合いが深まるにつれて主人公の心情に寄り添って、「誘拐犯」ではなくて「昔の両親」へと認識を変えていくのがとても柔軟で優しかった。
ヴィジュアルからもっとポップでファンシーな物語だと思ったら拉致監禁...
[個人的には] 面白かったです
創作活動をしたくなる
海外の映画館で鑑賞。
監禁モノにおける話のメインは脱出になりがちだがそうではない作品もある。
「ルーム」は中盤で脱出し、本作では開始5分で救出される。「ルーム」では脱出後の世界も地獄だったが、本作の主人公はそれまで暮らしていた両親が誘拐犯だったと知るところからのスタートになる。それも25歳で。
自分の好きな物語が突然終わってしまった、なら自分の手で続きを作ろう!となるオタク根性が素晴らしい。
役者になりたかったと語る刑事に、なぜ夢をあきらめたのかと言うジェームズの無垢で残酷な問い。
人はいつ自分の創造性に見切りをつけるようになるのだろうか。ジェームズに協力することで生き生きし始める刑事が良い。
クリエイターの端くれなら、観た後に創作活動をしたくなる一作。
なんじゃこの映画
【”僕は初めての友人達と一緒に広い世界で”ブリグスビー・ベア”を作りたいんだ!”幼き時に誘拐された青年の”ブリグスビー・ベア”に対する熱い思いに打たれた人々の、愛と友情、適応と人生再生の物語である。】
<Caution! 以下、内容に触れています。>
ー 幼き時に、テッド(マーク・ハミル)と妻、エイプリルに誘拐されたジェームズは、彼らが製作したVHSに録画された”ブリグスビー・ベア”を地下室で見ながら、独りで育った。
そして、その”ブリグスビー・ベア”はテッドが、彼のために制作した作品だった。-
◆感想
・今作は、「ルーム」のような作品構成である。
が、ジェームズを幼き時に誘拐したテッド(マーク・ハミル)と妻、エイプリルの行為は許されるものではないが、彼らはジェームズをとても大切に育てていた事が分かる。
・そして、二人が検挙され、本当の両親、妹と20年振りに出会い、ジェームズは初めて広い外の世界を体験する。
- ここの描き方が、良い。
本当の両親、妹や、新しく出来た友人達、そして元役者のヴォ―ゲル刑事。皆、無垢な彼に優しい。
そんな中、映画を大スクリーンで観たジェームズは、自分自身のオリジナル”ブリグスビー・ベア”の制作を始める。
絵コンテを書いて、ストーリーを練って・・。-
・”夢を諦めたのか!”と言われた元役者のヴォ―ゲル刑事が、彼のために押収品を提供するシーンも良い。その中には、”ブリグスビー・ベア”の頭もある。
・そして、ジェームズが訪れた人。それは、”ブリグスビー・ベア”を長年担当していた、拘束されていたテッドだった。彼も又、ジェームズのために”ブリグスビー・ベア”の声を担当する・・。
<ジェームズのオリジナル映画”ブリグスビー・ベア”が上映されるシーン。彼は緊張の余りトイレで吐いているが、友人スペンスはその姿を優しい目線で見ながら劇場に戻る。
恐る恐る劇場に戻ったジャームズが観た、満場のスタンディングオベーション。
今作は、ジャームズの”ブリグスビー・ベア”に対する熱い思いに打たれた人々の、愛と友情、適応と人生再生の物語である。>
またしても、クリス・ミラー&フィル・ロード作品の良い映画
これは刺さった
かなり良作の映画、主人公役、監督がかなりの映画好きなのが伝わる。どうやら友達同士で作ったようでそれが映画内での作品作りにもいかされてるのかな?
80年代風のチープなブリグズビーベアの映像は本当に夢があるというか、人を惹きつけるものがあって素敵。
主人公の境遇や、ずっと子供を探し続けていた家族のことを考えるとヘビーだがしたいことをさせてくれて、そこそこのお金持ちそうな家族だったのが救いw
刑事さんまでとても良い人。
こーゆーハートフル系によくある周りが都合よくいい人達集団なのは否めないが、ラストにブリグズビーベアにけじめをつけて現実へと向かうのを示唆させるような未来を感じさせるのはよかったと思う。
ただ、もうブリグズビーベアに拘らずに家族と普通に川で泳いでるとか普段の日常を楽しんでる後日談も少し入れて欲しかった気もする。
でないと、ただのオタクのワガママと見られてしまう可能性も笑
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