「宗教や人種に関係なく、どこでも起こりうる諍いがきっかけ」判決、ふたつの希望 yukarinさんの映画レビュー(感想・評価)
宗教や人種に関係なく、どこでも起こりうる諍いがきっかけ
宗教や人種、国、そして内戦などの歴史からくる衝突
そういう問題を描いている作品なのだろうと思っていた
けれど、それももちろん描いているけれど、そこを通して、人と人も描いている秀作だった
事の発端は、住民と工事関係者のちょっとした衝突
正直、日本でだって普通に起こる日常の問題レベル
だったはずが、レバノン人の住民が、工事関係者がパレスチナ難民だと気づいてしまったことから、事はこじれ始める
正直、最初はレバノン人のトニーがすごいレイシストっぷりで見ていて頭に来る
そりゃ、パレスチナ難民のヤーセルも素直に謝罪する気にならんわ、というか、謝罪する必要なくない?という気持ちになるほど
そんなふたりは互いに自分は間違っていないと思っているので、相手を悪く言い、謝ろうとしない
これは、日常によくあること、誰しも多かれ少なかれ心当たりのある諍い
そうして、ふたりの諍いは、どんどん泥沼化してしまい、とうとう法廷で争うことになる
一審から、控訴審、そして国中が注目し、政府も関与する大事件になっていく
国を巻き込み、それぞれが背負っている忘れることの出来ない、そして変えることの出来ない過去も明かされていくことで、この裁判にどんな判決が?この映画にどんな結末が?と思うほど複雑になってくる
しかし、最後は、この映画を観てよかったとしみじみ思える
そこには、救いがあるし、こじれてしまっても、まだ道はあるのではという希望を感じる
そして、そこに持っていくまでの流れと伏線が本当に素晴らしい
ここからネタバレ
大統領だったと思うのだけれど、そこに呼ばれて、和解を呼びかけられた帰り、隣同士で止まるふたりの車、そして、エンジンのかからないヤーセルを置いて、トニーは行ってしまう
と見せかけて、トニーは戻ってきて、ちょちょいっとヤーセルの車を直してしまう
何も言わずに立ち去るトニーを見ながら、心の中で「ありがとうは?ありがとうでしょ?」と突っ込んでしまうんだけれど、トニーが立ち去った後のヤーセルの微笑みが何か希望を感じる瞬間だった
そして、トニーが言わずにいた過去の傷が法廷で明かされた後、トニーのもとを訪れたヤーセル
何をいうんだろう?と思って見ていたら、ろくに喋らなかったヤーセルがびっくりするほどの悪態をトニーにつき始める
そして、トニーからの一発
トニーの深く辛い傷を知って、それならば、自分がどうして手を出してしまったか理解するかもしれないと、あえてきつい方法でトニーに伝えようとしたのか、それともこれでおあいこだとでも言いたいのか
けれど、ヤーセルはそのことを表では明かさない
そうして判決が出た後、握手もしないし、お互いを見もしないで法廷を後にするのかと思いきや、最後の最後で見せるお互いへの赦しと理解を悟らせる微笑み合い
あれを見た瞬間の気持ちは、ちょっと忘れがたい