「傑作!我が事として考えさせられる重厚なドラマ」判決、ふたつの希望 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
傑作!我が事として考えさせられる重厚なドラマ
これは傑作だった。レバノンとパレスチナ難民の対立や差別意識などを重点に置いて描かれているドラマであるものの、そこに映し出される光景は、今現在世界中の至るところで観られるものであり、どこかで見覚えのあるあるいは身に覚えのあるような出来事に思えたりする。単一民族国家と言われる日本であっても、こういう対立や差別のようなものは確かに存在しているし、国は違えど、この映画に描かれた問題と人々の痛みや苦しみや叫びを、世界中の人々が我が事として見つめたのではないかと思う。
きっかけは些細ともいえる個人同士の問題だった。工事が喧しいとか、水やりの水がかかったとか、その程度のことだった筈が、一方がレバノン市民で一方がパレスチナ難民であったこと、またそれぞれに事情と過去があること、それらはどちらも社会が生んだ悲劇であったこと、個人の問題の根底には社会問題が根を張って居たりすること・・・そういったことが解決の糸を複雑に絡ませてしまい、裁判にまで発展した時点で、あくまで個人同士として始まったはずの問題は民族同士の問題や社会問題に膨れ上がってしまった。この映画は、問題提起として何かを強く訴えようということとして以上に、個人の問題の礎が社会の問題であるということと、一方で社会の問題は個人の問題の蓄積であるということ、そしてまた個人の問題を社会の問題として扱うことの恐怖やその逆もまた然りであることなんかを強く気づかされる内容で、「個人」と「社会」という概念が複雑に重なり合っていくドラマティックさに重厚なサスペンスとメッセージを感じて、終始感嘆しきりだった。
分かりやすいシーンだとは思ったけれど、車のエンストのシーンはやっぱり巧いと思った。社会問題として考えればパレスチナ人を許すことはできない。でも個人問題として考えればエンストして困っている人は助けずにいられない。このシーンのように、人間の矛盾しているからこそ共感できる描写が多数存在して、その都度感心させられた。最後の不思議な和解のシーンも巧かった。
私は日本人という立場でこの映画を「外国映画」として見たわけで、作中の表現を借用すれば「観光客のように」作品を観たことになる。私の立場で観ればとても面白い映画だった。でも私が自国の当事者だったら、この映画をどうやって見てどうやって感想を抱けばよいかは、見当もつかないなと思った。それほど生々しく真に迫るものを感じたからだ。それでも私は☆5より下には出来ないなと思った。
この映画は、傑作だった。