「対立」判決、ふたつの希望 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
対立
見なきゃいけない映画だと思うし、観るべき価値もあった。
対岸の火事ではなく、誰もが抱えるであろう火種の話でもあった。
アカデミー作品賞を撮って欲しいとさえ思う。
肩に水がかかった。
そんな些細な事柄が国家を巻き込む民族闘争にまで燃え広がる。
そんなありえない展開を納得させる程の背景がレバノンって国にはあった。
実にスムーズに、スピーディに燃え広がる。
1人1人に燻り続ける火種があるからこそではある。
恐ろしいし、馬鹿げてると思うのは集団心理の扇動のされ方だ。
どちらの側も正当性を譲らない。
その譲らない正当性に付加されていくものがあり、和解どころか負けられない闘争になっていく。付加されるものは「愛国心」であったり「犠牲者の魂」「魂の尊厳」であったり否定するには忍びない事柄ばかりだ。
だからこそ世論を巻き込み、燃え広がる。
1番の戦犯は、その火に薪を盛大にぶち込んだ弁護人たちであり、当人たちの利益などは二の次だ。この事例を前例にやりたい事が山程あるのだろう。「口は災いの元」とは良く言ったものだ…。
そして最大の戦犯は政治家だ。
国を統治する為に使う文言の数々で、それらは国の為ではなく、議席や権力が底にある。
勿論、それらに簡単に騙され、煽られる俺たちも共犯だ。
そんな構成が際立つ脚本だった。
本人たちの邂逅の仕方も秀逸だった。
相手の車を直してやるシーンなどは見事なシーンだった。
自分の後悔も反省も、性格や生き様、信念まで色濃く反映されてたシーンで、対立しあってた2人が、交錯するとてもいいシーンだった。
その後、対峙した夜を経て法廷で再会した彼らにはもう憎しみはないように思えた。
対話がなくては溝はなくならない。
条件付きの対話などは愚の骨頂で、双方の為にこそ対話が必要不可欠なのだ。
言葉を交わすだけが対話でもないと思えた。
「謝罪は敗北でなく、相手を尊重する為に使う言葉だ」
この言葉を実践していきたいとも思うが、これは中々難しい…。
大きな集団であるなら尚更だ。
でも、心の何処かにはずっと掲げていたい旗印のようにも思えた。
昨今の世界情勢を考えても、非常に意義のある作品に出会えた。