劇場公開日 2019年5月24日

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「言葉と音への繊細な感覚が美しい」嵐電 島田庵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5言葉と音への繊細な感覚が美しい

2025年7月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

京福電気鉄道嵐山線ーー通称「嵐電(らんでん)」
ワタクシは嵐電が大好きで、
京都へ行くと必ず
用がなくても乗る。

その嵐電をめぐる映画だってんで、
テアトル新宿へ観にいった。

「えっ? 台本あるんですか?」
っていうくらいの自然な台詞と演出をベースに、
時々めっちゃ「不自然」な「演劇的台詞」を
突き刺してきて、
どっちもすごい。

そして
「言葉」(京と津軽)と「音」への
繊細な感覚が美しい。

  *  *  *

嘉子(かこ)=大西礼芳(おおにし・あやか)さんが
めっちゃいい!
京都の歴史を背景に生まれ育ってきたっていう雰囲気と
それとは別に個性として引っ込み思案な性格と
その葛藤が生む切なさと可愛さが
涙もの。
(「嘉子」は「過去」と重なる?)

他方、
津軽から修学旅行でやって来た高校生の
南天(なんてん)=窪瀬環(くぼせ・たまき)さんが、
フィルム・カメラで写真を撮るのが大好きな
地味な女の子なんだけれど、
北の国から南の空を目指して飛ぶような一途さ。

彼女の「運命の相手」となった(けれども逃げている)
不登校の高校生、子午線(しごせん)=石田健大さんは
毎日独りごちながら8ミリカメラで嵐電を撮っている。
だが彼は、南天から逃げているのに
いつしか嵐電ではなく南天を撮っていて(南天と嵐電、母音が同じだな)
「好きなものを撮ろうとこのカメラを買ったけど、
気づいたら、撮ったものを好きになってた」

主役のひとりであるライター、
衛星(えいせい)=井浦新(いうら・あらた)さんは
自分を見失っちゃってる感じか。
江ノ電の走る鎌倉か藤沢に残してきた奥さんとの関係も
見失っちゃったか。
(ただ電話の会話が、もうちょっと微妙なすれ違い感を出してた方がよかったんじゃなかろうか。
仲よさげなのに遠ざかっちゃったっていうから、もしかしたら奥さん、現世にはいないんじゃないかと思っちゃった)
ちなみに奥さん役は、青年団の安部聡子さん。

全てを貫くのは、
結界のほころびから現れた異界のような世界。
そこでは夢と現の境が曖昧。
メタな構造が、その境界をさらに攪拌する。

願わくは、最後の方の嘉子が
夢の世界ではなく、
現実世界でああなったんであってほしい。
でなきゃ切なすぎる。

いっそのこと
全部が衛星の夢だったっていうんだったら
嘉子の切なさも消えるからいいんだけどね。

あがた森魚さんの歌もよかったし、
全編を通して
嵐電の「画」と「音」に浸れたのも幸せ。

名作
であります。

しばらく行ってなかったけど、久々に
京都へ行きたくなった。

島田庵