「言い得て妙「超実写版」」ライオン・キング はてんこさんの映画レビュー(感想・評価)
言い得て妙「超実写版」
観客が求めている物を作るのが上手いジョン・ファブロー監督がまたやった。
まず、私はアニメ版のライオンキングが大好きです。人生で初めて見た映画が多分これです(それかアラジン)。VHSを擦り切れるくらい見ました。その事を念頭にレビューを読んでもらえると嬉しいです。愛故にレビューが長くなる事も先にお伝えしときます。笑
ストーリーラインはアニメーション版と"殆ど"変わらずで安心して見ていられるし、音楽もエルトン・ジョンやハンス・ジマーはじめ、当時からの天才を再結集させているので安心感と迫力が物凄い。映像に関しては言わずもがな。同監督が手掛けた実写ディズニーアニメ、ジャングルブックの時以上に、CGもとうとうここまで来たか、と感じた。本物と相違ない。
そして何より素晴らしいのが、"殆ど"以外の、ストーリーにおける細かな変更点が、アニメ版の時に抱いていた疑問点を解決してくれたことだ。
例えば、スカーとハイエナの関係がそれだ。
アニメ版では、王の弟であるスカーがハイエナ達の巣に入り浸っている様子で、ハイエナ達もスカーをボスのように扱う。プライドランドに入る事すら許されない者とのこの親交は不自然に思っていた。(子供ながらに)
しかし、今回、スカーとハイエナ達は同一目的の為の協力関係に留まった。敵の敵は味方という風に。
シェンジというボスを立て、ハイエナ軍団を一勢力として扱った事でザコ感が少し薄れたし、ハイエナを軽んじる発言をしたがために協力関係が崩れて襲われるという、スカーの最後にも説得力が増したように思う。
ささやかながら、ナラとシェンジの因縁を作れたのも、ラストバトルの要素として面白かった。
また、プライドランドから楽園(オアシス)に子供シンバが落ち延びる際、シンバが砂漠を渡るシーンが入ったのも良かった。
アニメ版ではこれがないので、ラフィキに諭されプライドランドに戻る際に砂漠のシーンを見せられても違和感しかなかった。
その他、ムファサが王とはなんたるかを説いた高い岩山がスカーとのラストバトルの舞台になっていたり、プンバァ・ティモン以外の楽園の動物達ともシンバは親交があり、ラストシーンではその動物達もプライドランドに来ていたりと、感慨深い気持ちになる変更点が多々あり、細かいところだけれど、流石の一言。
少し話が脱線するが、高い岩山の上でムファサが王国をシンバに見せ、王のあり方を説く場面。あれはジョン・ファブロー監督の力量を物凄く見せつけられたシーンだった。
この監督が黒澤明監督ファンである事は有名だが、黒澤監督といえば、自然現象の使い手としても名を馳せた。その影響が、この場面で光った。
黒澤明監督映画の一幕に、吹き荒ぶ風の中を役者がただカメラに向かって歩いてくるというシーンがある。今でも映画ファンの間では語り草の場面で、何がすごいかというと、このシーン、役者は歩いているだけという点だ。つまり、風が演技している。こういうことを、黒澤明は何気なくやってのける。
注目して欲しい。ムファサの鬣(たてがみ)を揺らし、幼いシンバに吹き付ける。王の偉大さ、シンバの圧倒される気持ちをあの一瞬で描いている。素晴らしい一幕だと感じた。
像の墓場の一幕でも、殆どのカットでカメラをシンバやナラの低い目線に合わせて描く事でハイエナ達の不潔な牙を強調し、そもそもCGとなった顔面の気味悪さも相まって、ハイエナ達をアニメ版より恐ろしく描けたのは緊張感の演出として素晴らしかったし、それを蹴散らすムファサの強さも高められ、そして、シンバを失うかと怖かったという弱さーー人間くささも際立った。映画において、"何を写すか"ではなく"どう写すか"の大事さを改めて感じる一幕だった。
微妙だった点ももちろんある。
映画の端々に、スカーがサラビを想っているようなニュアンスのセリフがあるが、この二人のラブロマンス要素は正直いらなかった。
王になりたい理由にサラビの事があるならもっと掘り下げるべきだったし、今回みたいに中途半端にプラスαするなら無い方がいい。
映画で二度ほど、巨木の上でラフィキが空に拳突き上げるシーンがあるが、あのシーンばかりはCG感が凄いというか、リアルであるが故にヒヒの行動としてありえな過ぎて少し気持ちが映画から離れてしまった。
ハイエナとスカーの関係性がアニメ版より浅く(アニメ版では一応仲間。今回はあくまで協力者)なった事で、楽曲「be prepared」が薄味になってしまった。いきなり仲良さげに歌われても困惑するが、個人的に好きな楽曲だったので、少し残念。
シンバとナラの再会にタメがなさすぎた。
何年も会っていないお互いを、いざこざの決着後すぐお互いだと認識している。アニメ版の方がタメがあり、喜びの爆発のさせかたもよかった。あまりにアニメ的な表現ではあったので、あえて省いたのか。
微妙な点と言うのも少し違う気もするが、いわゆるメタ的なお笑い要素。ハクナマタタ歌唱中にティモンが、プンバァを"止め飽きた"と言うような事を言うシーンや、"シャウトしてるよ"と言うようなシーン。また、「Be our guest」 を歌い出す場面。
悪いとまでは言わないが、世界観の外から生まれるこう言う笑い要素は個人的に少し苦手。
と、いまいちだった点もあげれば多々あるものの、素晴らしい点に比べれば瑣末な事。
ビヨンセの圧倒的な歌唱力には恐れ入ったし、エンドロール時にエルトン・ジョンの書き下ろし曲を聴けたのも良かったし、"ライオンキング2"の楽曲が流れたのもファンとしては胸熱なポイントだった。
パイレーツオブカリビアンのテーマソングを手掛けた事でも有名なハンス・ジマー("he's a pirates"製作のドタバタ劇も彼の偉大さの一端)の楽曲達もパワーアップして蘇えり、そのサウンドだけで正直鳥肌ものだった。ヌーの暴走の時にかかる楽曲と映像とのシンクロっぷりは他のあらゆる映画と比較しても唯一無二。
そしてここまであまり触れずに我慢してきたが、なんと言っても映像美。これにつきる。
本物にしか見えない。何もかも。
特に、ムファサが雲の中に現れるシーン。ここの映像には相当気を使ったはずで、雲が父の姿に見えるという実にアニメ的な表現を実写でやってのけた。一見ただの雲だが雷光煌めけばムファサの顔が現れ、そしてまた刻一刻と形を変える雲。だが、また閃光が走ればライオンの顔を象る。見事だ。シンプルに美しい。
アニメ版はカラーリングの鮮やかさが際立つ映画だったが、実写版では正直、その良さは消えた。しかし、また別次元の映像美をもたらしてくれた。誰が言い出したのか、「超実写版」という言葉は言い得て妙だ。