「ティム・バートンが描く、”普通じゃない”社会的マイノリティの象徴」ダンボ Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
ティム・バートンが描く、”普通じゃない”社会的マイノリティの象徴
1941年製作のディズニー古典アニメの名作「ダンボ」の実写化である。
「美女と野獣」(2017)や「マレフィセント」(2014)、「シンデレラ」(2015)、「プーと大人になった僕」(2018)などなど、ディズニー古典アニメの実写化が止まらない。
実写化プロジェクトがこれほどまでに進む理由には、まず映画文化の成熟(他の古典芸能と同じくネタ切れ)があることは否めない。
もうひとつの背景には、3D CGIの技術的進歩がある。多くの人が「ジャングル・ブック」(2016)の動物たちの自然な再現性や、「美女と野獣」の"野獣"やオオカミの描写力といった"実写みたいなアニメーション(CG)"に驚いたはずだ。
かつてウォルト・ディズニーが「メリー・ポピンズ」(1964)で仕掛けた、"実写とアニメーションの合成"は、高次元で"夢がかなった"わけである。
生身の俳優と共演するCG描画された動物は、本作でもキーテクノロジーとなっている。アニマトロニクスと3D CGIがなければ、"ダンボ"は描けない。
しかしたとえ最新の技術があったとしても、サーカスの象が空を飛ぶだけの児童向けアニメに、実写リメイクとしての厚みを持たせることはできない。
そこは、ティム・バートン監督の個性的な世界観が必須なのである。バートンの「アリス・イン・ワンダーランド」(2010)のメガヒットがこのディズニー実写化プロジェクトの皮切りとなったのは間違いない。
本作ではバートン作品に共通の"普通じゃない人々"が活躍する。
サーカス団のファミリーは、社会の枠組みから疎外された"普通じゃない人々"の代表である。オリジナル・ダンボでは、総じて人間=悪者だった。
対して、耳が異常に大きく、ブサイクな子象のダンボや、サーカスの動物たちは擬人化された弱者であり、社会的マイノリティの象徴となっている。
オリジナルではコウノトリが母親ジャンボのもとに子象を届けたが、本作ではちゃんと産まれる。またサーカス団員のネズミ、"ティモシー"がダンボをスターにしようと手助けするが、それを曲馬乗りのホルトの子供たちに置き換えている。
実はカラスたちの虚言だった、"空を飛べる魔法の羽=自分を力を信じること"、の部分が"単なる羽根"になってしまった。
ストーリーに"普通じゃない人々"を絡めたことで、自分を信じる勇気の部分が少し薄らいでしまっているが、そこはリメイク脚本で表現したかったリアリティとのトレードオフだろう。
驚くべきアレンジは、ダンボに人を乗っけてしまうという発想! これこそ、ザッツ・エンターテイメントである。
主題歌はオリジナルの「ダンボ」と同じ「Baby Mine」。「白雪姫と七人の小人」の「いつか王子様が」や「ハイ・ホー」も手掛けたフランク・チャーチル作曲の名曲である。日本語吹替版で、竹内まりやが歌っているのが嬉しい。オールディーズっぽい曲調で、あえて指名したのではないかと思うほど、しっくりハマっている。
ちなみにパンフレットは800円の割に結構しっかりと作り込まれているが、スクリーンサイズ表記で"シネスコ"とあるのが残念。これは"ビスタ"の誤り。実際に試写を見ていない編集者のよくある(上書き)ミス。画竜点睛を欠くとはこのこと。
そして今年は実写版「アラジン」(6月7日)、実写版「ライオン・キング」(8月9日)と続くわけだが、ロブ・マーシャル監督による実写版「リトル・マーメイド」も準備中だ。少しせわしない気がする。楽しみがオーバーフローしそう。
(2019/3/29/ユナイテッドシネマ豊洲/ビスタ/字幕:石田泰子)