「更新:夢を忘れた大人に向ける古き良きアメリカ映画のオマージュ」メリー・ポピンズ リターンズ 祐也さんの映画レビュー(感想・評価)
更新:夢を忘れた大人に向ける古き良きアメリカ映画のオマージュ
プラスポイント
ファンタジー方面の描写が大きく進化
昔のアメリカ娯楽映画の雰囲気を最大限活かしてる音楽、大幅に盛り込まれたダンスシーン
非常になめらかに動くアニメーションシーン
シュチュエーションごとにマッチしている衣装・ヘアスタイル
マイナスポイント
時代感を意識しすぎて「夢」以外の現代性を取り入れることが出来なかった
論理性にかける微妙に押し付け気味のメッセージ
3D・アニメーションシーンで実写人物の合成がやや甘い
数名のミュージカルと無関係なメインキャストが浮いてる
タイトルに書かれてない受賞歴
アニー賞:
特別制作アニメーション賞
実写部門のキャラクターアニメーション賞
カプリ・ハリウッド国際映画祭:
ベストコスチュームデザイン
サターン賞:
ベストミュージックアワード
映像技術の進化は凄いものでファンタジー世界はより細かく奇妙にパワーアップしている
「夢」や「起点を変えた視点」を面白い演出や音楽に乗せて描かれてる
お風呂の中には広い海が広がっており、溺れることなくどこまでも泳ぐことが出来るシーンはとても好きである
メリーポピンズの無闇矢鱈に魔法を使わないスタンスも好きである
楽しませる事に関しては惜しむことなく魔法を使うが、後半のシーンのように魔法を使う必要がない場面ではギリギリまで魔法を使わない
前作のオマージュ、引用も数多くあり、特に最後の父が子供心を思い出すシーンは「凧をあげよう」の旋律が引用され中々憎い演出だと思った
昔の映画音楽の雰囲気を盛大に盛り込んだ作曲は感動すら覚える
もちろん録音技術も進化してるので迫力・音色は段違いだ
耳をすませば前作で使われたメロディーが随所で引用されている
ミュージカル方面が甘かった前作を比べると群舞のパフォーマンスが増え演出もより洗練されたものとなった
衣装・ヘアメイクも2次世界大戦以前のイギリスのファッションに現代的な感覚も盛り込んだ工夫のあるデザイン、盛り込んだ非常に凝ったものである
アニメシーンではカートゥーン風のプリントがされてる
ドラマ「ダウントンアビー」とはまた違う趣があるのではないだろうか?
正直衣装だけ見てるのも楽しい
アニメーションとの融合は前作以上にパワーアップ
多少3Dモデルによるトゥーンレンタリングも使われているかもしれないが2Dアニメーションのなめらかさは古き良きディズニーの醍醐味であり、近年の3D+実写に呆れ殆どディズニー作品に興味が沸かなかった所を見事にインパクトを与えてくれた
反面、照明がデフォルメされてるアニメキャラに比べ人間はリアルな照明を当てられてるため違和感を感じた
輪部もリアルではっきりしすぎている、現代の映像処理で恐らくもっとうまく融合することもできただろうに非常に惜しい
歌唱・ダンスは最低限出来ているがドラマ「glee」や「エビータ」、「ヘアスプレー」、「ノートルダムの鐘」等、本場ミュージカル・ダンス・音楽界で活躍しているようなキャストが集まってる作品に比べると明らかにパワー不足である
ダイナミックな群舞と比べるとメインスタッフのパフォーマンスがどうしても見劣りしてしまう
前作の曲を使って欲しいと声が多かったものの前述の通りメロディラインの引用は多く耳をすませば前作のメロディを聞き取ることができる
問題は歌い手の方であり実力のあるキャストを起用すれば心に残る音楽を残せたのではないだろうか?
言葉遊びの多い曲が多いので吹き替えは少々難があるが特にメリーポピンズをはじめとして吹き替え版の方が幾分クオリティーは高いように思える
わざと下手な役者を揃えてリアリティを持たせる作風は「ナイトメアビフォアクリスマス」や「となりのトトロ」、「千と千尋の神隠し」以降のジブリなど昔からところところで行われてるが正直、よほど上手く活かせてない限り私はクオリティダウンにしか繋がらないのではないかと思う
「ヘアスプレー」の内気な役のジョン・トラボルタが最後に少し歌うシーンなどは成功例と思える
また個人的に知名度だけを考えたキャスティングは一般人への話題性の方に注目が行き非常に印象が悪い
身も蓋もない言い方をすればストーリーはアニーのような現実ではありえないような突拍子もない内容であるが逆にどこまで現実から離れた世界を描いたという点では大成功だ
ただ子供向きかといえばあまりそうとは思えない、どちらかといえば昔のミュージカルが好きな夢を忘れた大人に向けられてる気がする
また王道・古風なストーリーを作るあまり昔の感性にまだ囚われてるようで例えば説教にも論理性が欠けている気がする
妹が女性活動家という設定も受け継がれており、前作の母と違って最後に普通の主婦・母に戻るべきだという演出がないのは大きな進歩
「中身が大事、見た目なんかどうでもいい」と歌うシーンがあるが歌ってるのは見た目も中身も完璧なメアリーポピンズである…このシーンで若干白けた
見た目も伴えばなお素敵という一足しがあれば非常に説得力があった所が非常にもったいない…
こういう作風ではあまり細かいことに突っ込むのは野暮なので割愛するが…
総評
同じような古い映画をオマージュした作品に「ラ・ラ・ランド」があるが、現代性を取り入れて芸術性を狙ったものの結局何を目立たせたいのかわからなくなった中途半端な「ラ・ラ・ランド」に比べストーリー性を控えめにしてビジュアル・エンターテイメント性を高める方向にしたのは大成功だ
イメージボード調のオープニングやアニメーションすなわち2Dイラストレーションへのこだわりが尋常なく見られ、そういう意味でも感服した
様々な方面で前作を大きく上回る進化を遂げた作品と言えよう
古き良きアメリカンエンターテイメントを、ファンタジーに満ちた夢のある世界観を求めてるのなら必見である
また3Dアニメに飽きたアニメファンも楽しめるだろう
そこまで詳しくないので3D技術使ってるじゃないか! と思う方もいるかもしれないが…
ミュージカル版「キャッツ」の様なレビューショーがメインなので細かいストーリー要素を求めて見る人には向かないだろう
ミュージカルマニアに関しても超絶歌唱力のメインキャストが居ないので「ナイトメアビフォアクリスマス」などライトなミュージカルでも大丈夫な心の広い人向き
追伸:
「なんでいきなり歌いだすの?」「ミュージカルなので嫌い」…だから評価を下げる といったレビューを多く見るが完全にお門違いである
ホラー映画においても「残酷すぎる」、「何のメッセージもない」…だから評価を下げるというような感情的なレビューが余りにも多い
というように嫌悪感だけのレビューのせいでミュージカルや特にホラー系は評価が全体的に低い気がする
もちろん普通の映画と思ったらミュージカルでした!! というのは広告詐欺なのでいいと思う