「看板に偽りあり。「オルゴールと秘密の鍵」」くるみ割り人形と秘密の王国 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
看板に偽りあり。「オルゴールと秘密の鍵」
こりゃなんだ! どこが"くるみ割り人形"なのか分からない。
確かにチャイコフスキーのバレエ曲を使っていて、おもちゃの兵隊とねずみの王様が出てくるけれど、そもそも、肝心の"くるみ割り人形"が出てこない。看板に偽りあり。敢えてタイトルを付けるなら、正しくは「オルゴールと秘密の鍵」だろう。
とにかくディズニーの悪いところがいっぱい寄せ集まった、謎多き作品。
まず、他人のものを、あたかも自分たちの成果のように見せたがる悪い癖。「くまのプーさん」をはじめ、「人魚姫」や「アラジン」、その例を挙げれば枚挙に暇がない。しまいには、「STAR WARS」や「アベンジャーズ」などは札束で解決する。それがディズニーだ。
本作は、チャイコフスキーの三大バレエ曲(他は「眠れる森の美女」、「白鳥の湖」)の映画化で手付かずだった「くるみ割り人形」を、ネタギレの穴埋めのように映画化したにすぎない。
どうせ映画化するなら、原作やバレエ作品を尊重するのかと思いきや、単なる"inspired by The Nutcracker"である。
さらに近年、とくに国際的な配慮をしすぎるディズニーは、もともとの文化さえも塗りつぶしてしまうのだろうか。一方でミクロネシア文化をリスペクトした「モアナと伝説の海」(Moana/2016)やメキシコ文化の「リメンバー・ミー」(CoCo/2018)は素晴らしいが、「くるみ割り人形」に有色人種はやめてほしい。
原作はドイツの童話で、それがフランスの小説解釈を経て、ロシアでバレエになった。ヨーロッパ白人劇である。バカのひとつ覚えのように、国際色豊かにすればいいってもんじゃない。
日本の「桃太郎」を金髪白人が演じるようなものだ。気持ち悪い。
結局、名門アメリカン・バレエ・シアターで黒人女性初のプリンシパルとなったミスティ・コープランドを使いたいだけでしょ。それなら普通にバレエを観たほうが感動できる。
バレエ的にはセルゲイ・ポルーニンとのエンドロールのダンスが、本作の唯一にして最大の見どころ。
同じクリスマス映画で幸せな気分になりたければ、同日公開の「Merry Christmas! ロンドンに奇跡を起こした男」のほうが、10倍幸せになる。クリスマスで浮かれる現代の常識を作ったチャールズ・ディケンズを主人公にした、"クリスマス・キャロル・ビギンズ"である。
(2018/11/30/ユナイテッドシネマ豊洲/ビスタ/字幕:古田由紀子)