「森へいつでも帰っておいで」プーと大人になった僕 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
森へいつでも帰っておいで
たとえば昔の友人が今も元気でやってると聞くと、しんどい気分の時もふっと気が楽になるものだが、
昔好きだった物語のキャラクターについてもこの感覚って似ていて、好きなキャラには
「昔の姿のまま楽しくやっててほしい」と願ってしまうものじゃないかと思う。
だってイヤじゃない、ドラえもんとかしんちゃんとかが死んじゃったり欝々した人生送ったりだなんて。
なので自分は昔からこの手の「あの名作の続きの物語」というのには
若干の抵抗があって、今回もちょっと鑑賞を躊躇していた。
『くまのプーさん』のアニメや原作自体をそこまで熱心に観てはいないが、子どもの頃から彼らは
ぬいぐるみやタオルケットやらで幼い自分の身の回りにいてくれた訳で、あの可愛らしい
動物たちが、年老いてくたくたに疲れてしまっている姿なんて見たいとは思わないのだ。
だけど……本作は良かった。
そりゃクリストファー・ロビンはくたくたになってたけれど、動物たちは昔の通り、
のんきで元気で可愛らしく、なにより観ているこっちまで明るく元気にしてくれた。
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まず評価したい点は、時代設定は世界大戦後だが、
設定は疲弊した現代人にも共通する視……視点で……
……はあああそんなんどうでもいいわ、
ああもうストレートにプーさんかわいい、
いやもうめっさかわいいもうなんなん
これほんとどうなってんのこれかわいい。
こちらのガードを容赦なく下げてくる反則級の愛らしさ!
プーさんのあの小さなもふもふの体と優しい瞳、そしてイノセントな言葉は、
日々に疲れてすっかり汚れっちまった自分の心の、純粋で柔らかい所に
これでもか!と刺さってくるんである。心に刺さってくるどころか、
心にボディブローの嵐を容赦なく叩き込んでくるんである(グリズリー・ザ・プー)。
ああああ、やめてくれえ、そんなきれいな目で薄汚れた自分を見ないでくれえ。
おなじみのティガーやピグレットなどももちろん登場! ぬいぐるみのような見た目の彼らが
ちょこちょこ動いたりほんわかした言動をするのを観ているだけで、心がほっこりしてきます。
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一方、仕事に追われてすっかり無邪気さを失ってしまったロビン。
家族を幸せにするにはお金がいる。お金のためには仕事がいる。
だから頑張って仕事をするけど、暮らし向きが特別良くなる
わけでも無いし、奥さんや娘とは心が離れ始めてしまっている。
せっかくプーと再会しても、あれはできないこれはできないと言ってばかり。
ついには大事な友達の一番良い所を、酷い言葉で貶して傷付けてしまう。
中盤、プーが投げ掛けるあの悲しい台詞には、窒息しそうなくらいに胸が苦しくなってしまった。
それでもやっぱり、ロビンの心の奥には昔の彼がいる。
心や容姿はくたくたなのに、プーは「君の眼は昔と変わらない」と言ってくれた。
ロビンも、プーや森のみんなが大切な友達だったことを、心の奥では覚えていた。
友達のために子どものように泥んこまみれで飛んだり跳ねたり、“何もしない”で
プーと肩を寄せ合って空を眺める姿に、笑いながらも涙、涙。
娘のアマンダが活躍する終盤の展開もステキ。
物語ってのはこうやって、長く永く続いていくんだよね。
プー達を通して伝えられる父の想いや、父と少しでも一緒に過ごしたい彼女のいじらしさにウルっと来る。
インディ・ジョーンズばりとまではいかないが、物語のスケールに合った冒険で盛り上げてもくれる。
最後の展開はちょっとでき過ぎだけれど……
時間もお金も余裕がなくてピリピリしてるばかりより、
“何もしない”時間を作ったり、好きなことをして、もやもやする胸から
ほぅっと息を吐きだすだけで、世の中ずいぶん広く明るく見えてくるものかも。
気付けなかった大事なことに気付けるかも。
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まだ物心もつかない頃からずっと傍にいてくれた友達。
いつも仲良く遊んだはずのそんな大切な友達を、どうして人は忘れてしまうんだろう。
昔、世の中が楽しくて可笑しくて驚きに満ちていたのは、そんな友達がいたからなのに。
だけど彼らは忘れずに待っていてくれる。そして、もしもあなたが
人の親なら……あなたの子どもたちのことも、きっと歓迎してくれる。
いつ会いたくなったって大丈夫だ。100エーカーの森への入り口は、
いつだってあなたの傍で扉を開けて、あなたの帰りを心待ちにしてくれている。
<2018.10.08鑑賞>
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余談:
僕は普段は字幕派なのだが、時間の都合で今回は吹替版を鑑賞。だけどプーさんたちの声が
お馴染みの声だったので、かえって聞き易かったかなあ。ほっとする声でした。
ただ、堺雅人はやっぱり堺雅人に聞こえちゃうね。
彼が声優に挑戦してたことは知らなかったが序盤で気付いた。好きな声だけどちょい違和感。
あとラストで上司に「土下座、してください」とか言い出さないかとドキドキした(言うかい)。