「1分目から、ずっと切ない映画」プーと大人になった僕 bloodtrailさんの映画レビュー(感想・評価)
1分目から、ずっと切ない映画
企業戦士になったクリストファーロビンが、絵本の世界に置き忘れてきた#何もしないをする#気持ちを思い出し、職場崩壊と家庭崩壊の両方を免れる、ディズニー的ご都合主義に塗り固められたファンタジー映画、なんですけどね。なぜか胸んとこの左心房辺りから咽の奥に向けて、やわらかい何かが膨張して行く感じ。最初の1分目からお終いまで、ずーっと。。。
クラフトパルプにペンとインクで描かれる、動物のぬいぐるみ達と少年の姿。最初の10秒で、緩くココロが締め付けられ始めます。絵本の世界から飛び出したクリトファー・ロビンは、どこか少しだけ大人びていて、哲学者みたいな口ぶりで、こんなことをプーに語ります。
「何もしないをする」
物語は駆け足でロビンを大人にします。父親の死、成人、めぐり合い、身重の妻を国に残しての出征と戦闘、3歳になった娘との初対面、そして勤め先で神経をすり減らす日々を送るロビン。
「何もしないからは、何も生まれて来ない」
30年後の自己否定。ロンドンで家族と暮らすロビンは、言葉通り、別の世界の大人というものになっていました。小さい脳味噌のプーは、100エーカーの森から偶然にも迷い出た公園で、そんなロビンと再会を果たします。
会社で、精神的に追い込まれているロビンに童心が残っているはずもなく、プーはただ迷惑なおバカさんでしかありません。100エーカーの森に連れ帰ることに躊躇はありませんでした。ロビンは森で、子どもの頃に自分が怖れていたものに飲み込まれてしまっていることに気付きますが、もうもどることなど出来るはずもありません。
森で一晩を過ごした後、ロビンはロンドンにトンボ帰り。大切な会議がある。ぬいぐるみ達は、ロビンの命に関わる書類をティガーのミスで鞄から抜き取ってしまっていたことを知り、ロンドンまで届けに行くことにします。案内役、いや隊長としてマデリン合流。ちょっとした探検・冒険です。マデリンとプーは書類をロビンの会社の直前まで運びますが、転んだ拍子に書類は風にさらわれ飛散してしまいます。風に乗って行こうとする書類をつかみ取るマデリン。手許に残ったのは書類というより、メモに使った雑紙の切れっぱしの一片だけです。そこに駆け寄るロビン。
でも大丈夫。ロビンは、プーが届けてくれた沢山の大事なものをしっかりと受け取ってました。その中でも、とびきり、一番大切なものは、本当はいつも一緒にいなければならないはずのマデリンです。マデリンを何よりも愛おしく思う・一緒にいなければならないという気持ちが、マデリンを抱きしめると同時にロビンの胸中に溢れます。
プー、でかした。
マデリンの手に残ったメモは、ロビンに一発逆転の大発想をもたらします。会社のプレゼンは大成功。休暇も取って家族三人は100エーカーの森で楽しいひと時を過ごします。あぁ、なんてディズニー的なラストなんだろ。こいつはプーさんに免じて許せっけど。
4弦楽器4声が奏でる音楽に乗せた、詩の朗読を聴いているような、2時間のファンタジー映画は、「大人に子どもの頃の忘れものを思い出させてくれる映画」なんかじゃありません。「決して忘れてはならないことを、これから大人になって行く人に教えようとしてる映画」です。
みんな忘れちゃだめだよ、ってハチミツでベトベトになったプーが訴えてる。。。いや、ベトベト過ぎだろ、それ!