「☆1つでもまちがってはないんですが」来る アストロ温泉さんの映画レビュー(感想・評価)
☆1つでもまちがってはないんですが
この映画は確かに名作なんですが、例えば『キル・ビル』で主人公の女剣士が日本刀を携えたままキリッとした顔で飛行機に乗るような(バカな)シーンに、ある種の「美」やバカが突き抜けたからこその「カッコよさ」を感じられるような人でなければ解らないレベルの良さ、美しさがあって、それは「刃物を持ったまま飛行機に乗れる訳がない」という至極まっとうな範囲で作品を評価しようとしてしまう、真面目で「ちゃんとした人」には解らない次元のすばらしさなんだと思います。
(「解らないヤツがダメ」なんじゃなくて、むしろこの映画に☆5をつけちゃうような人の方が社会的にはよっぽどダメなのかもしれません。)
ここのレビューの評価平均点が☆3なんですが、それがどうやら「みんな☆2や☆3をつけてるから」というより「☆1と☆5でまっぷたつ」「その結果の☆3」という感じなのが気になって、「ジャンルはホラーらしい」ということ以外はこの映画に原作があることすら知らずに私は観に行きました。
いや~!めちゃくちゃおもしろい!!
まず「ホラー」のジャンルに分類されているけど、そしてホラー映画の手法をふんだんに利用してはいるけど、さらにあえて分類するならこれは「ホラー」とするしかないんだけど、観客をこわがらせることを主目的としたいわゆる「ホラー映画」ではまったくないんですよね。
(ゆえに「こわいホラーを期待して観にきた」という人が☆1の評価をするのは間違いではないと思います。)
また、私は原作を読んでいないのですが、ここでの☆1のつき方をみるに「原作のよさを正確に再現する方向での映画化」という仕上がりにはなっていなかったのだろうと想像出来ます。原作を深く愛し、その一字一句が残さず映像化されることを期待した方たちが落胆し、☆1をつけてしまうのもまた、間違いではないと思います。
ただ、原作を完コピした映画版の『20世紀少年』がそれでもダメだったように、原作が良ければよいほどそれの「再現」は単なる「劣化」にもつながりかねず、成功しなかった可能性も高いのです。
この映画にはある種の激烈な熱量と目を背けたくなるような居心地の悪さ、そしてそれを支える悪ふざけにすら見える異常なテンションがあり、ひとつの作品として成功しています。
それは映像技術や演出の巧さはもちろんのことながら、やはり豪華な俳優陣の演技力があってこそのものであり、特に女性メンバー、黒木華さんのリアルさと、それに対をなす小松菜奈さん、松たか子さんのマンガのキャラのような輪郭のくっきりした演技、そしてなんと言っても柴田理恵さんの「演技力」だけの問題ではない俳優としてのパワーがすごすぎて、笑えるシーンじゃないのにヘンな笑いがこみ上げてきてしまうほどすばらしく、そのあたりだけとっても個人的には☆5億点ぐらいつけざるを得ないのです。
中島らもの小説やアニメ『キルラキル』や『パンティ&ストッキング』、タランティーノの映画などが好きな人、『ブラック・ジャック』が宇宙人手術したり幽霊手術したりするのを許せる人になら、オススメ!
そのあたり「オバケがやることだからしょうがない」と割りきれるかどうか、っていうのはあるかもしれません。
やっぱり人間、物語にある程度の伏線や前後の因果関係を求めてしまうのはしょうがない(し、『来る』はその辺必要最低限以上には描いていたと思う)んですが、現実ってめっちゃいい人が突然事故で亡くなったり、かなり理不尽ですよね。
そのあたりの理不尽さまでこの映画はうまくエンターテイメントに昇華していたように感じました。
突き抜けたバカを「面白い」「カッコいい」と感じるかどうかっていうのが凄く的を得てますね!僕は終始起きる霊現象に笑いっぱなしですが、同行者は「なぜ殺すのか」「どうやって殺したのか」などと気になったようで、分かり合えない溝を感じました。