来る : インタビュー
岡田准一&小松菜奈が初タッグ 中島哲也監督は怖い人?
岡田准一と小松菜奈が鬼才・中島哲也監督のホラー「来る」で初共演した。岡田は幸せそうな家族(妻夫木聡、黒木華)に襲いかかる霊的な存在“あれ”の謎に迫るオカルトライター役。小松は霊媒師の血を引くピンクの髪に全身タトゥーのキャバ嬢を演じた。出演者を厳しく演出する“怖い監督”として知られる中島監督だが、2人が見た素顔とは?(取材・文/平辻哲也、撮影/間庭裕貴)
「嫌われ松子の一生」「告白」「渇き。」などスローモーションやCGなど撮影技術を駆使し、スピード感溢れる編集で独特の世界を構築してきた中島監督。「来る」は、最恐最悪の悪霊である“あれ”に立ち向かう人々の姿を描く。澤村伊智氏の日本ホラー小説大賞受賞作の映画化で、中島監督が自ら脚本を手がけた。
中島監督作に初主演した岡田は「いろんな噂も聞いていましたので、毒や闇を期待して、現場に入りました。でも、監督はチャーミングな方でしたね。もうちょっと破壊的な方かなと思っていましたが、愛情が溢れながらも、うまく言えないから、厳しいことを言ってしまうことがあって、お茶目な方でした」と振り返る。
一方、小松は女優デビュー作「渇き。」に続く再タッグ。「『渇き。』から4年間空いていたので、見えないプレッシャーがありました。『おまえはどれだけ変わったんだ?』ということを、求めているのか、いないのか分からないんですけども、そういう雰囲気が伝わってきました。だからこそ、変に気を張ってしまった部分もあって、クランクインはとても緊張しました」と話す。
ただ、映画界でよく聞く「怖い」という印象は一切ないという。「『渇き。』の時から、全て愛情だと思っていました。はっきり言ってくれるので、すごく愛されているな、と。お父さんみたいな方ですね。みんなといると私のことをいじってくるんですけれども、二人きりになると、『最近どうなの?』『お芝居、楽しい?』とか、『彼氏できたの?』とか、普通のことまで聞いてくるんです。すごく優しくて、(以前と)変わらないんだなと思いました。私はすごく大好きです」と笑顔を見せる。
脚本の構成、細かいセリフ回しに惚れ込んだという岡田が演じたのは、無精髭を蓄え、少しやさぐれた感じのあるオカルトライター、野崎だ。「仕事になれば、何でも書く」という言動や斜に構えた行動とは裏腹の正義感の持ち主で、“あれ”の正体に迫っていく。日頃、ライターと接する中、参考にしたことはあったのか。
「僕が出会うライターさんには、(野崎のように)荒れている方はいないですね。野崎は世の中を真っ直ぐに見ることができない人であって、人間の良いところと悪いところをたくさん見てきた感じというものを大事にしてきました。きっと挫折もしてきただろうし、闇も持っている。そういうところはわかる気もするので、大事に演じました。ライターさんって、どこか何かを信じているところがありますよね。例えば、面白くなくても何かいいところを探して書く。どこかにかすかな希望を見出している感じがします」と話す。
ホラー映画はあまり得意ではなかったが、今回は脚本を読み込みすぎて、怖さが分からなくなったという。「最初に読んだ時は全部怖かったんです。電話が鳴るシーンだけでも、“怖いな”と思っていました。ただ、10回以上読むと、慣れてしまって、怖くなくなってしまった。僕は、周りでいろんな出来事が起こっていくのを最後まで観察していく役回りで、リアクションがどうしても多くなるので、怖さに慣れずにどう演じるかが今回の課題でした」
小松の役は最近、多かった青春ものの正統派ヒロインとは一転、ピンクに染めた髪にタトゥーというインパクトのあるキャバ嬢・真琴だ。どんなアプローチでなりきったのか。「イメージは全部、監督の中にありましたので、それを自分のものにできればと思っていました。撮影に入る1カ月前にピンクをいれてもらいました。仕事的には支障もあったんですけど、ウィッグだと違ってきてしまうと思ったんです。朝、鏡を見ると、“自分じゃないな”と。本当に別人のようでした。お客さんにも、『誰だろう?』と先入観なしに見てもらえる方がいいかな、と思いました」
霊媒師の家系に生まれた真琴は、霊能力は高いわけではないが、自分なりに“あれ”と対峙する。「見た目は激しいんですが、中身に母性があるのが真琴。監督からは『単に弱いだけではない。もっと強さを見せてほしい』と言われました。目の表情や態度で弱い部分を演じながらも、見せないようにしました。台本を読んだ時に思ったのは、戦っている相手は、お化けじゃなくて、みんなが持っている闇や抱えているものだということ。ただ怖いではなく、怯え、戸惑いなどいろんな感情もあるわけで、そういう部分をうまく出せたらいいなと思っていました。現場では悩んだりしたこともありましたが、岡田さんにも助けていただき、楽しい現場でした」と岡田のサポートに感謝した。
岡田と小松は初共演。撮影の前後で印象が変わったところはあったのか。「もともと、いい女優さんと思っていました。(髪の毛を早くにピンクに染めた話も聞いていたので)気合が入っているなと。お芝居や画になった時に力がある。そんな印象は変わらなかったですね。現場のあり方もきれいだし、僕の中でも好感度は高い。真正面から役にぶつかっていく姿を見ると、応援したくなるんです。そのままでいてほしい。『いい男性と出会ってほしい』とみんなで言っていました(笑)。妹みたいな存在です」(岡田)。「岡田さんは、もっと固い人だと思っていました。すぐ(控えの)部屋に戻ったりして、話しかけちゃいけないという、イメージだったんですが、お話していても緊張せずに話せるというか、こんなに喋ったりするタイプじゃないんだろうなと思っていました。現場でもいい意味で、すごく普通でした」(小松)。
2人とも、普段の役どころとは違う、個性的なキャラクターを演じた。演じやすさに違いはあるのだろうか。「役柄というよりは、(物語における)役割を演じていくしかない。時代劇は特殊技能で、サラッとやると、役が弱く見えてしまうんです。今回の野崎のような役どころは気持ち的に楽にできて、楽しかったですね」(岡田)。「監督からは『おまえは青春映画のやりすぎだ』と言われました。でも、青春映画は同世代とできるのですごく刺激的なんです。今、どんどん若い子たちも出てきていますし、自分も制服が似合わなくなってしまう。でも、どっちかっていうと好きなのは、こういう精神的にくるもの、シリアスなものですが、いろんな役に挑戦できているのがうれしい」(小松)。
岡田は今年、38歳。10年前の役どころの変化について、自身では捉えているのか。「20代の頃は、男性がいないと言われた草食男子の時代で、年上の女性の相手役が多かったですね。だから、男が持っているものを作らなきゃと思い、アクションを始めたんです。それを突き詰めた結果、侍か軍人役が多くなった(笑)。なりたい自分にはなれたんですけども、なれすぎたという感じもあります。今後は、どう面白味を作っていくか。俳優としても男としても、40代が鍵だと思っています。ここから踏ん張りどころです」と意気込む。
小松は「10年後は32歳か、どうなっていますかね」。まだ未来予想図はぼんやりのようだ。ただ、結婚願望を聞かれると、「ないですね」とキッパリ。そんな言葉に、岡田は「兄ちゃんとしては、俺と(彼氏が)戦ってからだな」と笑い。最後まで、仲の良いところを見せてくれていた。