「あちら側の世界から見てみると……」半世界 琥珀さんの映画レビュー(感想・評価)
あちら側の世界から見てみると……
PTSD心的外傷後ストレス障害の原因には、この自衛隊員のように紛争地帯で銃を持つ子どもたちに囲まれる(相手が子どもなので反射的に攻撃できないまま、撃たれる恐怖に直面する)ことの他、震災、津波、犯罪被害者などさまざまなケースがある。そしてDV被害者やレイプ被害者など固有の事情が絡んでくる場合、他人に知られたくない、相談できないという二次的なストレス、酷い場合は被害者にも落ち度があると責められる、といった三次的なストレスにも晒される。
悩ましいのは、世界はそこだけではないんだよ、とこの映画のように何の悪意も押し付けがましさも無く伝えることができたとしても前を向くことや簡単にこちら側に戻れない人もたくさんいらっしゃる、ということ。
この映画の長谷川さんが怒鳴ったり白髪オヤジの腕を折ったりしたように、或いはミレニアムシリーズのリスベットのように邪悪な相手を文字通り攻撃することでしか(一時的だとわかっていても)ストレスが発散できないのかもしれません。※リスベットには更に複雑な事情があり、単純な発散とかではないのですが。
この問題が難しいのは、一般的で平和な(イジメなどのことを考えればそう言い切れませんが)日常の世界ではない、残り半分のストレスフルな世界にいる人たちに、こちら側においでよ!というアプローチはできても、そちら側の世界にこちら側のみんなを連れて行くから待っててね!というアプローチはできないということ。
(実際にそれをしようとしているのが、ISや過激な原理主義者たちで、たぶん無差別テロの目的は各国政府の転覆などではなく、報復合戦や疑心暗鬼を喚起し、結果として、平和な日常をオセロゲームのように命の危険のあるストレスに満ちた世界に変えようとしているように見える。)
忘れてはいけないこと……もう半分のストレスフルな世界に生きてる人にとってもその世界が『まだまだ続く』ということだと思います。
コメントをいただいたので、自分のレビューを読み返してみたら、世界で一番影響力のある、過激な原理主義者はISよりもトランプさんだということに気が付きました。まさにアメリカという世界が半分ずつに割れてしまいました。
これからの修復を祈るばかりです。
死ぬこたあない、と私も思いました。問題を個人レベルにちっちゃくしてしまった気がします。でも、それが私たちが普通に生きてる世界で世間なんだろうけれど。
監督がこの映画で一番描きたかったのは、たぶんPTSDのことよりは、グローバル経済や経済成長のための効率化追求などとは無縁で、そのような世界の人たちからは忘れ去られそうな地方の世界のことだと思うのですが、その気付きのキッカケとしてPTSDが取り上げられているのだとしたら、ちょっと嫌だな、という感じが拭えなくて少し天邪鬼(あまのじゃく)なレビューになってます。
それとせっかく微妙なニュアンスのセリフが散りばめられた素晴らしい内容なのに、『まさかの死』に感情の昂ぶりを委ねてしまったことが残念でなりません。
淡々と過ぎゆく日常の中でも十分深みのある作品だったのに。